第30話 巫女と物の怪(4)

 一階のフロアはシーンと静まりかえっていた。実菜穂、陽向、さらに霞も呆然と邪気がなくなったフロアを眺めていた。


「なんか、すごかったね」

「うん。物の怪が跡形もなくなった。ここはすっかり祓われたよ」


 実菜穂と陽向が式神の美しさに感心している様子を、霞は口をつぐんでモジモジしながら見ている。自分の不注意で実菜穂と陽向に余計な力を使わせてしまった。浅はかな自分が恥ずかしくて声すらかけられなかった。


『実菜穂、陽向、霞。お主ら何をしておるのじゃ』


 みなもの声が三人の頭の中に響いてきた。


「ごめんなさい。私が慌てたばっかりに実菜穂さんと陽向さんに迷惑をかけてしまいました」

「迷惑じゃないよ、霞ちゃん。みなも、ごめんなさい。私がアホウでした」

「私もです」


 実菜穂と陽向が霞を庇った。


『かまわぬ。謝らねばならぬのは儂の方じゃ。お主等に式神のことを詳しく教えておらぬのが悪かったのじゃ。よいか、式神はとてつもなく強力な神じゃ。本来、一体だけでこの建物を祓い浄める力がある。それゆえ、呼び起こすには式神とお主等の莫大な気を必要とする。気づいてはおらぬだろうが、お主等の気はかなり消耗しておる。一度呼び起こすと、式神自身の気を回復するために半刻はんときはおかねばならぬ。ましてやお主等であれば更に刻をおかねばならぬ。じゃから、本当に助けが必要な時以外は安易に呼び起こしてはならぬ』

「だよね~。みなも、今回はもう式神は使えそうにないね。この先は私たちの力で進まないといけないということだね」

『実菜穂、そのとおりじゃ。これで、陣取りが変わった。二階が陽向、三階が霞、四階が実菜穂じゃ。陽向、人の思念は身に憑くと捕らわれてしまう。絶対に建物から外に出してはならぬ。切り祓うのじゃ。そこで最後に残ったものを見つけよ。霞、邪鬼はもとは人が生まれし前にこの世界に和を保つために生み出されたもの。それゆえ、なかには人に近い者もおる。むやみに傷つけてはならぬ。実菜穂、放浪神は力がない神が多い。じゃが、なかにはまだ力を残しておる神もおる。この建物にその神がおる。そやつをうまく説き伏せよ。よいか皆、心してかかるのじゃ』

「はい!」


 三人はみのもの指示のもと、声を合わせ返事をすると階段を上っていった。



 三人に指示をする、みなもをシーナはジーっと見つめていた。


「なんじゃ、風。これで良いのじゃろ」


 シーナの視線に、みなもは「何か異があるのか?」と言わんばかりに問うた。


「良いよ。いいけど。そうだけど。みなも答え教えちゃうんだもん」

「教えなくとも、そのようなこと三人ならすぐに分かるじゃろ」

「そうなんだろうけど、みなも張り切りすぎだよ」

「何を言っておるか。この場に来て分かったわ。ここは本当に入口じゃ。香奈の件、この闇は深いぞ」


 みなもは長い髪を揺らめかせ、ジッと建物に視線を注いでいる。その美しくも頼もしい姿をシーナと火の神が瞳を輝かせて見ていた。


(これよ。私が好きなみなもの姿。雪神を護り、真波姫を鎮め、さらには、ユウナミの神をも説き伏せた水の神。みなもが動くときは必ず大きなものが動く)


 期待の光を輝かせてシーナはみなもを見ていた。

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