第25話 霞と隼斗(8)

 香奈を見送った後、霞は一人ベンチに座り、動画を見ていた。ちょうどこの場所で行われていた実菜穂と陽向が舞う場面だ。二人が神霊同体となっている姿が画面からもハッキリと分かった。


(美しいとか言葉で表現できるものじゃないよ。この世界を浄め、祓っているのが分かる。私にもシーナの力がある。それなら香奈さんの友達も助けられるはず。でも、どうすればいいんだろう)


 霞は大きく息を吐き出してスマホから顔を上げ、舞の舞台となっていた拝殿へと視線を移した。

 拝殿横のみなもの祠に人がいるのに気がついた。少し厚手の紺のTシャツを着ている男子だ。秋人である。みのもの祠に挨拶をしているところだった。秋人が時折、目を大きく開けたり、笑ったりしている。


(あの人、神様と話をしている)


 秋人が霞に気がつき、照れ気味に笑いを浮かべて会釈をしてきたので、慌てて深々とお辞儀をした。頭を上げると、秋人もお辞儀をしていた。


「実菜穂ならもうすぐ来るみたいだから、そのまま待っていて」


 秋人が鳥居を出て行くのを霞は、ポ~っと見送っていた。


(かっこいい人。神様が見えていたのかな。だとしたら神の眼を持っているのかな。あれ、そういえばどこであの人と同じような眼をみたような。思い出せないけど)


 秋人の眼が気になり考え込んでいたが、思い出せそうにないので諦めてスマホを眺めようと視線を落とすと、陽向が声をかけてきた。すぐに実菜穂も姿を見せた。


「・・・・・・ということがありまして」


 霞は香奈の話を二人に聞いてもらった。自分は信じたものの、実菜穂、陽向はどう思ったのか正直不安であった。笑い飛ばされるかもしれないけど、巫女としての対応の話を聞くことができれば、有難いことだ。緊張して二人を見ていたが、反応は霞の予想が外れることとなった。


「陽向ちゃん、こりゃまた難解な問題だね。私も尋ね人の張り紙見たことあるよ。まだ見つかっていないんだ」

「そうみたい。本当でも嘘でも、優里さんがいないのは事実だし、ただ事ではないね」


 実菜穂と陽向は話題にすんなりと入ってきたのだ。


「ねえ、みなも。こういうのを『神隠し』っていうのかな」


 実菜穂が声をかけたのは、霞の横にいる少女だった。城東門校の制服を身につけていた。


(わっ、いつのまに!水面の神様だ)


 霞がワッと驚くのをみなもは、ニッコリと見つめていた。その笑顔を見ているとなぜか霞も嬉しくなった。


「霞の話は誠のことじゃ。実際、儂も香奈とやらが話しておるのを聞いたからの。まあ、神かどうかは知らぬが、連れて行かれたのは誠じゃ」

「じゃあ、みなも。私たちはどうしたらいいの?事情を知ってしまったからには、見過ごせないんだけど」

「まあ、そうじゃな。兎に角、行方を追うには香奈たちが入った建物に行くのがいいじゃろう。行き先が分かるかもしれぬ。そうとなれば、霞、風を呼んでくれぬか・・・・・・と、申しておるうちに」


 みなもの言葉が終わらぬうちにシーナが風とともに姿を現した。


「水面の神が呼んだから来てみたけど」

「嘘じゃ。霞の声で来たと正直に申せば可愛いものを」

「どちらの声も聞こえていたよ。あっ、実菜穂と陽向もね」


 シーナは霞の横につくと、火の神にも声をかけていた。みなもよりも少し小柄なシーナは美しいというよりは可愛さを多く持っていた。実菜穂と陽向は、初めて見る風の神に興味津々の眼差しを向けている。


「陽向ちゃん、風の神って、風神の絵を想像してたから、もっと荒々しい神様だと思ったけど、可愛い神様なんだね」

「ありがとう。さすがは水面の神の巫女。嬉しいよ。私は二人を見てたよ。舞ったこと。琴美の御霊を取り戻すためにユウナミの神もとに参ったこと。そういうとこ大好きだよ。二人とも本当に可愛いよ」


 シーナが実菜穂の顎を持ち上げ見つめると、実菜穂の頬が赤くなってきた。


「ええい、そのようなこといまは言わぬでよい。お主のことじゃ、香奈の話す建物のこと見てきたのであろう。はよ、言わぬか」


 実菜穂に触れているシーナの手を軽く払うと、微かに顔を赤くした。どうやら御霊を返そうとした騒ぎの話をしたことが理由のようだ。


「もう、水面の神はせっかちだなあ。見てきたよ。面白い所よ。まあ、よくあそこまで吹き溜まりになったものね。放浪神に邪鬼にその他諸々。理由は分からないけど、巣くっているものを片づければ何か分かるよ」


 シーナがクククッと怪しげに笑っているのを、みなもは目を細めて見ている。


「お主、何を企んでおるのじゃ」

「ふふーん。それでは、霞、実菜穂、陽向の三人でその建物を祓ってもらいましょうか。これは実戦だよ」

「なんじゃ、いきなり」


 驚くみなもをシーナがクスクス笑う。霞、実菜穂、陽向もポカンとシーナを見た。


「あら、巫女になったのだから、ちゃんと経験しなくちゃ駄目でしょ。それに、案外、これも大きな入口に繋がることかもしれないよ。それじゃ、明日の夜、建物前で霞と待ってるね。霞、行くよ」


 シーナは霞を連れてスッと消えてしまった。


「みなも、風の神様が言ったのはどういうこと?もしかして、琴美ちゃんのことにも繋がっているのかな」

「分からぬの。また小さな闇が大きな事を起こそうとしておるのか。まあ、行けば何か得られるじゃろう」


 みなもの言葉に実菜穂と陽向は頷いた。

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