第23話 霞と隼斗(6)
霞のもとに香奈が駆け寄ってくる。いままでなら霞の方が息を切らせながらも駆けつけていたが、全く逆になっていた。どことなく変な気持ちである。
「早くきたのは私の都合だから気にしないでください。私こそ呼び出すような感じになっちゃって、ごめんなさい」
修司の件で香奈にマウントをとろうなどとは思っていない霞にとって、香奈の態度の変化には違和感があった。立場が上とか下ではなく、心に重石があるように感じるのだ。
「私の方がお願いしたことだから。でも、どうして
「あー・・・・・・そう、ここが静かで落ち着くかなと思って。最近、お気に入りの場所で」
言い訳の返事であるが、半分は本当である。実菜穂たちに会いに来たとき、温かくそれでいて涼やかな空気が緊張を祓ったことは実感していた。今もその空気を感じることができれば、少しは落ちつい話しが聞けると期待しているのだが、あの時に見た男子と女子の姿がない。
「早瀬、神社に興味があるなんて凄いな」
「えっ?あっ、いやー。実は最近まで全く興味なくて・・・・・・あっ、そうだ。話って何かな?もう、修司っていう男子のことなら大丈夫だよ。香奈さんの前には二度と現れないから保証するよ」
周りのことに気を取られていたので、香奈の声で慌てて返事をした。
「どうして、あいつの名前を知ってるの?もしかして、あれから何かあった?あいつ、自分も強いけど、「
(あーっ、それで
香奈が言う「白風」は、秋を告げる風のことだ。残暑を振り払い、やがては冷風となり辺りを凍えさせていく風である。
「あっ、チームの大将ともお話ししたからそれはもう大丈夫だよ。だから心配しなくて良いよ。それよりも話ってなに?」
霞の言葉に香奈はどう口にしたらいいのか何度も考えている様子だったが、意を決して答えた。
「もしかして・・・・・・・早瀬は何か凄い力持っているの?」
(あっ、やっぱりきちゃった。気付いてたのかな)
「どうしたの急に?」
今度は、霞の方が動揺していた。香奈はそんな霞の様子を気にかけることなく言葉を続けた。
「私、あの時からおかしくなったの。一年前に街中にある無人のビルに友達と肝試しで入った。そのとき、訳も分からず怖くなって逃げ出したの。凄く怖い気持ちだったから、逃げ出して、そのとき修司に声かけられて。一人が怖かったのでついて行ってしまって」
「香奈さん。修司の話は無理にしなくていいよ」
思い詰めて話す香奈の姿を見ていると、どこか自分を責めて傷つけているように感じ、優しく声をかけた。香奈は、霞の言葉に首を振り、さらに思い詰めた感じで震えていた。
「どうしたの?大丈夫?」
様子がおかしい香奈であったが、霞の瞳を見つめると地べたに手をついて頭を下げた。土下座の格好だ。
「早瀬、お願いだ。優里を助けて。私の親友なの」
霞がオロオロと香奈の姿を見ていたそのとき、スッと涼しげな空気が辺りを包んだ。地べたにひれ伏す香奈の背中を女の子が優しく撫でている。水色の髪に白い着物を着た女の子。霞が初めて神社に来たときに見た女の子がそこにいた。みなもが香奈を優しく慰めていた。
(神様だ。あの祠の神様。
霞はみなもの美しさにただ見とれるばかりであった。
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