第1話 鎧の国ー①
「入国目的は?」
「教会に祈りを捧げに来ました」
私の答えに納得の様子で門番は頷いた。
「やはり聖女様でしたか。了解しました。隣の方は付き人でしょうか?持ち物検査だけお願いします」
真っ白な修道服を着ているので、門番も私がそういう者であることに疑いを持つことなく、数分の持ち物検査で入国することが出来た。
「ガイドが必要でしょうか?よろしければ私が案内をしましょうか?」
門番のご厚意に丁寧に感謝を伝え断った。
それから少し歩いた後に下僕が文句を言ってきた。
「いいんですか?また、道に迷いますよ。この前なんて丸一日道に迷って教会に着いたじゃないですか?」
下僕のくせに文句ばかり。本当にうるさい。
そう思いながらも返事を返す。
「大丈夫です。もし道に迷うのならそれもまた必然。私達には神様の導きがあるのですから」
* * * *
「あのー。大丈夫ですか?」
「うるさいです」
入国して三時間。
完全に道に迷った。
てか、そもそも初めて来た国である。道なんて知ってる理由がない。
「下僕。おんぶして」
「・・・嫌ですよ。てか、その名前やめて下さい。カズキって普通に呼べないんですか?」
「黙れ下僕」
「うぁ。なんて汚い言葉遣いこんなのが聖女だと・・・いてて、引っ張らないで下さいよ。耳が取れます」
「取れたらいいじゃないですか」
私は下僕の耳を引っ張りながらにこやかに言う。そんなやり取りをしていると後ろから声をかけられた。
「聖女様でしょうか?」
「はい。そうで・・・」
「後ろに」
下僕が私と声をかけて来た人物の間に立った。
振り返るとそこには兜を被り全身ガチガチに鎧を装備した兵士が立っていた。
「・・・なんのようでしょうか?」
「あっ。すいません。こんな鎧を着た奴に声をかけられたら警戒しますよね。えーとですね。教会から軍に連絡がありまして、門番から聖女様が祈りに来ると連絡が来ていたのにまだ教会に来てないから様子を見に来てほしいと神父様から言われまして」
下僕がじっと私の方を見てくる。
「すいません。私のげぼ・・付き人が道に迷いまして」
凄い顔で下僕が睨んでいるが無視。
「なるほど。そうだったんですね。よろしければ教会まで案内します」
* * * *
教会で神様に祈りを捧げ終えると時刻は夕方になっていた。
「この辺りには宿はありませんので教会にお泊まりになられるということでよろしかったでしょうか?」
「いいえ。神父様。私の付き添いの者に宿を準備させていますので大丈夫です」
そう言って私は教会を後にしたのだが、教会から出ると下僕が頭を下げて謝ってきた。
「すいません。宿みつかりませんでした。今回は教会に宿泊するしかないです」
「はぁ」
思わずため息が出てしまった。教会に泊まるのは嫌である。本当に嫌であるが、野宿するよりはと考えていると。
「神様への祈りは終わりましたか?宿が決まっていないのならぜひ、私の家に来てはくれませんか?」
そう言ってくれたのは私達を教会まで案内してくれた鎧の兵士であった。
「・・・ね。道に迷った意味もあったでしょ」
私は勝ち誇った顔で小声で下僕にそう告げた。
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