第19話死神篇(19)

 その姿は、結城真美だった。真美の巨大なまぼろしだった。稲光ががきらめき夜空の闇に一筋の閃光が走った。

 途端、バイクのスピードが制御がきかなくなったのか、暴走し始める。『稲妻』が悲鳴を上げ、恐怖の雄たけびをあげる。運転を拒んでブレーキをかけているようだが、その行為が困難で、『稲妻』の連中は空中をジェットコースターに乗るみたいにとばされた。絶叫をあげる、暴走グループ。

 一台ずつ、バイクが破損し火炎をあげて、一台が、宙で爆音を立てると、それに続いて、あおりを喰らったのか、またさらにぶっこわれ、しだいにすべてのバイクとそれにまたがっていた人間も燃え盛った。まるで、恐怖映画でもみているようだ。

 バイクの爆音が大地震のように地響きをたて、家並みを揺らした。その幻視もマチルダにしか見えなかったのかもしれない。

 近所の人が警察と消防車と救急車を呼んだのか、けたたましいサイレンが耳を騒がせた。住民らが怖いもの見たさで、やじうま根性になり、目で貫き通した。

 この事件も霧の中に包まれて真相は解明されなかった。バイクの何らかの不調で燃え上がったのであろうとしか突き止められなかった。つまり、事故として処理された。

 マチルダは、違う、結城真美のあやつる死神が抹殺したのだと話したかったが、誰も聞く耳を持つものはいないだろう、とおろかな人間の潰しあいに、世をはかなんだ。『稲妻』は暴力で肩をつけようとして、逆に真美の戦略に乗ってしまった。事故として処理され、自然消滅した。

 街の人間には、活気をもたらした。時折見せるマチルダの渋みのある顔つきに気づくものは、ほかに一人としていなかった。真美は、平常通り、ウェイトレスとして地味に働いていた。彼女が、マチルダの異能力を危ぶんでいるのかは判然としなかった。以前通りの接客態度を見ていて、どこか空恐ろしいものが感じられた。何も気にかける様子が見られないのだ。いつか、話を聞ける日が来るのをまとう。

 マチルダは平穏そうに見える街を危険視していた。鈍感そうに見える、真美のすがたに危険の匂いを嗅いだ。毒ガスをまき散らそうと、街を死神のいけにえにさせようと狙っているかのように。

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