第20話死神篇(20)

 (8)

 『稲妻』が消え、街にすがすがしい空気が広がっていった。悪さするものらは、一瞬のうちにくず鉄が溶解炉でドロドロになって形を失うごとく消えた。だが、事件はそれで、終わりではなかった。それから、幾日か経った。事件はにわかに、マチルダの心を揺さぶった。

 喫茶セシリアのママ佐代子が、衝動的自殺なのか、物盗りで殺されたのか、包丁で胸を刺され、店のレジスターのそばで倒れていた。レジスターからは金銭は、一円も盗られたようには見えなかった。

 第一発見者はマチルダだった。マチルダは、地球の終わりを見るぐらい驚いた。なぜ、佐代子が死ななければならなかったのか? 警察に通報した。遅いお出ましだった。マチルダと真美は重要参考人の扱いを受けたが、すぐに、釈放された。アリバイは二人ともない状態だったが、真美もマチルダも、佐代子にかわいがられているのは、街の住人らが証言した。動機も曖昧だった。それに、包丁の柄の深い部分まで刺されていたので、女のちからでは無理と判断された。

 真美は、警察の事情聴取にどう答えたか知る由もないが、マチルダは、ひとつだけ確信があった。真美が殺したのだと。警察の判断は、物盗りの線で捜査することに決まった。それと、警察は伏せていたが、怨恨説も視野に入れていたのが、後々になって伝わった。狭い街だから、噂はすぐに流れる。

 マチルダにとって、佐代子は、真の母親ぐらいに思っていた。その佐代子に死なれ、空虚感と憎しみがないまぜになった感覚が襲った。事を荒立てたくはなかったが、結城真美に聞く決心がついた。

 経営者に死なれ、喫茶セシリアは店を閉じることに決まった。佐代子には、一人娘がひとりおり、和菓子屋を開いているらしかった。そして、喫茶セシリアから、会社でいう、退職金を与えてくれた。佐代子の娘は、体型も顔立ちも、佐代子にそっくりだった。特に悲しむこともなく、マチルダと真美に、佐代子の生活を聞かれ、平凡な物言いだが、愛想がよくみんなに好かれよい人でしたというほかなかった。

 佐代子の娘は、感情型タイプではないらしく、よほど、自分を抑えることができるのか、大人大人した人なのか、落ち着いていた。

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