第16話死神篇(16)

 マチルダには、暴力グループ『稲妻』から、受けた、血の洗礼により、頭をしたたか打ちすぎたのか、目を凝らすと、その人間の情景が見えるようになっていた。今現在は、真美について集中していたから、彼女の姿が部屋の中で幻視のごとく浮かんだ。

 結城真美は、おっとりした表情から、無表情に移り変わっていた。どこへ向かっているのだろうか? 夜道を自転車のライト一つで怖がりもせず、自転車のペダルをこぐ。

 着いた先は、メゾン四季。八階建ての高級マンションだ。真美は、自転車を駐輪場に駐め、部屋の住人の暗号化キーのボタンを手早く押す。洒落たドアが自動で開く。誰の部屋だ? 真美は、勝手を知ったかのように、エレベーターに乗り込んで、開閉ボタンを押す。落ち着いた先は、八階の奥の部屋。廊下には赤の絨毯があつらえてある。身綺麗なマンションだ。

 八〇二号室。ドアベルを鳴らす。緊張感がじわじわと心臓を圧迫する。

 ドアが開いて、面を見せたのは、『稲妻』のメンバー、田代貢だった。マチルダは、詮索する。真美と田代は、肉体関係でもあるのか? 

「まあ、中にでも入れよ。歓迎するぜ」

 馴れ馴れしいように感ぜられる。

 真美は、陽気になり、首を縦に振る。

 ギラギラ光った目を持つ田代は、真美の肩に手を回す。

「いいお部屋ね。さぞかし、高いんでしょう?」

 真美は、自然にソファーに座る。田代貢が、何にもいわないのに、ごく自然に。どういう仲なんだろうか? 

「おい、何か飲むか? ブランデーでもどうだ?」

「結構ね。それ、いただくわ」

 真美の態度も不自然だ。軽いノリすぎる。

 真美と田代は、やがて、乾杯して一口呑みこむ。

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