第15話死神篇(15)

 マチルダは、異能力の自然治癒能力が働いたかと、心の中でつぶやいた。ちらりと、真美を視野に入れた瞬間、薄ら笑いを浮かべているように見えたが、それは、すぐに消えて、だんまりの真美の表情に隠れた。

 なにか、おかしい。Ⅿという、イニシャルは考えてみれば、真美も、イニシャルはⅯである。うわさではⅯという女と寝ると銀八は、触れ回っていたそうだ。

 マチルダは、自分でないとしたら、ほかに寝る、もしくは寝た女がいたはずだ。それが、例えば、真美だとしたらどうなる? あの虫も殺さぬ性質に見える、真美が果たして、銀八を殺すだろうか? いや、殺せるだろうか? 頭を横に振るマチルダだった。

 真美が、額の冷却シートを換えてくれた。その目つきの奥に何かを読み取ろうとしたが、真美は純真さをあらわしたままだった。真美が、人を殺すとは到底思えない。そもそも、銀八は、自殺? 他殺? どっち? 真美も、コズミック・ミュータントなのか? それも十分あり得る。

 その夜、真美は大事な用件があるので、先にお休みくださいと述べて、喫茶セシリアを後にした。真美は、大してマチルダに気をかけているようには、そぶりを見せなかった。佐代子は、真美に、何か事件に巻き込まれているの? 私にはなんでもいってちょうだい、と持ちかけたが、ふふ、と笑っていった。

「気晴らしです、ずっと、店の中にいたから」とだけ答えた。

 当然のこと、マチルダはいぶかった。おっとりとした性格の真美に、ほかに知り合いはいても、親しく付き合う人間は、これまで誰もいなかったはずだ。

 二階の窓の内側から、真美が自転車で走りだすのを見ながらうずくまる。部屋のドアを開けて、閉じる。喫茶セシリアの自分の個室の狭苦しいベッドで寝そべり考え込んだ。

 さりとて、良い案が浮かぶわけでもない。

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