第12話死神篇(12)

 真美は、動揺していた。よき判断がないまま、マチルダを、独り降ろした。一旦、軽自動車は走り始めたが、また、戻ってくる。ほかに人はいなかった。マチルダも真美も通信手段がなかった。狙いすましたかのように、ひとは人っ子独りいなかった。

「マチちゃん、やっぱりだめよ」真美は、おろおろしていた。

 マチルダは、叫んだ。「いいから、真美さん行って。私は、運転免許がないから、残るのは私よ」

 わけのわからない屁理屈をいっていた。

 わかったと、真美はこくりと首を縦に振ると、軽自動車を急発進させた。真美の車が走り去ったと同時に、暴走バイクの連中に取り囲まれた。

 マチルダは、また、怒りの感情を持たねばならないことにうんざりした。

 暴走バイクの群れは、エンジンを鳴らしながら、突っかかってきた。

 避ける、マチルダ。

 そのやり取りが、少し続くと、ヘルメットをかぶっていない髪の毛を伸ばした男が、バイクを乗り捨て、近寄ってくる。

「おまえだな。銀八を嵌めたのは? 銀八は、Ⅿという女、っていってたんだ。この街で、Ⅿのイニシャルの女を探し回ったがよう。おまえが、一番目立って見える。それに聞いたんだよう。銀八にいい寄られているのも、おまえしか、おらんらしいからなあ。とぼけたって、無駄だぞ。情報提供した奴から、聞いたよ。仕返しに来た」

「私じゃないわ。そんな尻軽女に見えるかしら?」

「質問しているのは、俺だ。白状しろ」

「あなたは、確か、田代貢ね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る