第9話死神篇(9)

 (4)

 少女、葉月マチルダは、南方よりの田舎に移り住んだ。

 マチルダは、西洋人と東洋人の混血児にみえた。街の人間は、誰もがマチルダに目をくれてやった。物珍しそうに。やがて、マチルダは、場末の小さな喫茶店に働き口を見つけた。喫茶店の名は、セシリア。喫茶セシリアである。女主人のママはやせぎすで、愛想はないものの、客受けはよかった。人徳というものだろう。ママの名を、近藤佐代子といった。

 客は、山脈に囲まれた土木事務所の連中が多く、中には、小学生連れのママ友や、高校生などが通ってくれる。

 ウェイトレスは、マチルダのほかにもう一人、手伝っていた。

 名を、結城真美。二十歳ぐらいで、おとなしい性格だ。髪をおさげにして、あまり愛想のいいほうではないが、どこか憎めないところもある。マチルダは、真美のことを田舎のどこにでも生活していそうな女性くらいに考えていた。それほど、注目される女とは考えていなかった。

 土木事務所のこわもての男どもにからかわれても、だんまりを決め込む女だった。からかわれて、微苦笑を見せた時に、なんとなく、引き寄せる魅力があるのだと思っていた。真美は、平凡な顔立ちで、豊満な体型だった。

 マチルダは、ママの佐代子から夜間高校に行かないか、といわれていた。履歴書に高卒と記入しなかったからだ。本来なら、高等学校に通いたかったが、いまさらというか、学校はもうこりごりだった。学校に通う気が起こらなかったのだ。成績に関していえば、優秀でもほめてくれる親もいない。唯一の肉親に死なれた衝撃は大きい。高等学校に通っても、トラブルメーカーの面は否めない。

 現状で満足であった。真美と喫茶店のママ佐代子と三人で、一階は喫茶店。二階は、個室を与えてもらい、優雅といえばそのような生活であった。

 喫茶店は、カウンター席が六列並び、ボックス席が八つ配置されている。二階は、部屋が五つあり、その一室ずつを真美とマチルダが生活し、ほかの部屋は、ママの佐代子が使い、バスルームとトイレットルームがあった。それぞれが、八畳間で、ベッド、テレビ、本棚が備え付けられていた。

 真美は、自分の身の上を詳細に話すことはなかった。出身地はどこだの、生い立ちはどうだのと、話す女ではなかった。ママの佐代子の意のままの人間に動いているように見えた。もちろん、腹黒い女にも見て取れなかった。

 そこは、マチルダも過去を聞かれるわけでもないので助かった。異能力の話など相談できるはずはないからだ。

 単調な生活が風のように吹き抜けてゆく。何も事件は起こる気配はなかったはずだった。

 事件は唐突に起きた。

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