第8話死神篇(8)

「わかったわ。条件は呑む。ただ、これは慈善事業なのかしら?」

「ああ、おまえの自由にしてよい。これからの生き方も人生も。ただ、あたいの監視下にあることを忘れるな。何度でもいうが、コズミック・ミュータントだからといって、害毒になっては困る。その危険性のため、秘密調査局が存在するわけだ。

 おまえは、自由の身だ。どこへでも行け。資料を渡しておく。目をよく通しておくことだな。そののちは廃棄しろ」

「ひとつ質問していいかしら? この建物に、いつでも困ったら来てもいいのかしら?」

「それは、ダメな相談だ。あたいらは、特定の場所にいない。ここは人手に渡る。いいか、人間は独りでは生きてゆけない。ところが、矛盾するようだが、人間は独りで生きなければならない。世情の厳しさなど、とっくの昔にわかっていると思ったが? 

 蛇足だが、おまえはどうやら、無意識にでも異能力を発揮できるようだな。ピンチに陥ると、薔薇のつる性が派生したのを見た。

 さあ、行きなよ。真新しい人生を満喫してきな」

 マチルダは横のテーブルに置いてあった衣服を掴むと無造作に着て、イズミから、茶封筒を渡された。

 それは、現金だった。マチルダは、当座の金までいただいた。

 出たとこ勝負の日々に慣れなければならない。

 もう故郷は嫌な思い出ばかりで、海底に沈めたいくらいだ。一層のこと、沈めてしまおう。

 新しい人生、”葉月マチルダ”として、やり直そう。

 しかし、母さんを死に追いやった奴は許せない。きっと、探し出して見せる。報復してやる。マチルダは決意を固くした。炎をメラメラ出して、街へと飛び出した。

 街には陽光が満ち足りていた。振り返ると、例の建物は消え去っていた。

 音速で動ける少女、謎の、滝イズミ。

 マチルダは、喜んだ顔を表現していた。何が、待っているか楽しみだわ、そう思うことに決めた。

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