第5話死神篇(5)

 滝イズミ、という少女は、一瞬のうちに消え去った。瞬きしたのと同時に。消えるのが、能力なのかしら? 頭が一気に混乱してきた。美樹子は、思った。そのうち、滝イズミとは、対決するだろう。だが、今ではない。そのとき、私は、あいつを地面に叩きつけてやることが可能だろうか? 

 いや、考えすぎだ、と頭から振りほどこうとする。まだ、敵か味方もわかっていない。今の私は、あまりに非力すぎる。

 用心のため、家の中に入り、鍵を閉め、窓の雨戸を閉じ、外部から侵入されないように、厳重に戸締りした。

 その夜、気持ち悪い夢を見た。

 暗殺者が、母親の衣服を刃物で切り裂き、首をひもで絞殺するとうものだった。母の友里恵の苦悶の形相がすさまじくて、哀れに思えて、助けてあげたいが、躰が縛り付けられて身動きできなかった。

 叫び声をあげる。

 美樹子は、その瞬間、パッと目が覚醒した。

 火の手が上がっている。煙が部屋中を包み込んで、火の勢いも押し寄せていた。何者かが放火したのだ、と認知した。

 火の手は急速に拡大し、何よりも黒煙が、美樹子を参らせた。呼吸困難に、息がむせた。

 部屋という部屋は、頑丈に雨戸が閉じられていて、開けようにもメラメラ迫りくる炎に阻まれて、一刻の猶予もない。誰かを呼ぼうにも、遅すぎた。

 炎が、美樹子を囲む。炎の色に染まりそうだ。

 やがて、黒煙にも容赦なく呼吸器官を苦しめられ、美樹子は悲鳴を上げ、なすすべもなく、炎に嘗められていった。

 異能力が発揮し始める。躰の皮膚から、薔薇のつる性が派生したものの、火の勢いには叶わなかった。

 炎が、美樹子を覆いつくそうとしていた。

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