工業化の時代

第56話 紡績機と織機

 新大陸の産業も発展し一般市民も十分に購買能力を持つようになってきた。

 市民も追加の服やより品質の良い服を求めるようになってきており、コットンタウンの工場もフル稼働で対応している状況だ。


 モルガン商会の工場としては糸を作る紡績から布や服の作成までを一貫して行っている。必要に応じて糸や布の染色も行うので工場の規模としてはかなりのものだ。


 需要の増加に合わせて工場の増員や効率化は徐々に進めてはいるが、布や服を作るというのは工程としてどれも時間がかかる。

 これまでは機械化を検討するよりも人を増やしたほうが早い状況だったが、需要の伸びと人手不足の問題がありそろそろ本格的な機械の導入を進めるころかなと考え出した。


 機械化ができそうなのは次の2点、糸を紡ぐ紡績機と布を織る織機だ。

 糸が足りないと布は作れないのでどちらか片方だけ効率化してもしょうがない。以前から研究所や各種職人たちに効率化のための検討はしてもらっていたので、試作品はいろいろと作成してある。


 まずは紡績機だが、こちらは綿花をり糸にしながら巻き取る必要がある。

 従来の糸車の問題は撚り糸のための紡錘ぼうすい(糸を引っ張って巻き取る重りのこと)が1本づつであったことと人力で糸車を回すことで回転速度がまちまちになり糸の太さや強度が安定しなかったことであった。

 そのため改良方針としては紡錘を増やし撚り糸および巻き取りを複数個同時にできるようにすること、また回転のための動力を人力以外でできるようにして糸の品質を向上させることであった。


 そう言うのは簡単だがじゃあどうするんだというところなのだが、結論を言うと前者は糸車の紡錘を横から縦にすることでけっこうすぐに解決した。

 今までの糸車は水車のように縦になった車輪を手で回転させてたため紡錘も水平に回転させるものだったのだが、特にそういった先入観のなかった僕や研究員達は縦のほうが複数並べやすかろうと配置して問題なく動いたのでよしとなっていたのだ。後から監修の職人に縦でも動くんですねとびっくりされたので当たり前ではなかったことに気がついたぐらいだ。

 後者もすでに動力として蒸気機関の研究が進んでいたためこれを採用することにした。むしろ動力としては速すぎて回転を安全なスピードに調整するのにけっこうな試行錯誤が必要だったが、歯車をいくつか噛ましてスピードを落としてもかなりの効率で糸を作成できるようになった。

 安定して品質の良い糸にするにはもう少し試行錯誤が必要だとは思うが、一旦はこれで人力よりは圧倒的な高効率で糸の作成をできる目処が経った。


 糸が解決したなら次は織機だ。織機は動作が複雑なため完全な機械化はすぐにはできなさそうだが、少なくとも一点解決できそうなところがあった。

 それはと呼ばれる縦糸に横糸を通す道具だ。織機はこの杼を行ったり来たりさせる操作を人力で行うので大変なのだ。


 前世の知識でジョン・ケイという人が「飛び杼」と呼ばれる発明で革命的な効率化を成したということを憶えていたので、これを解決すれば効率化できるはずだと考えた。ただ飛び杼って具体的になんなんだという重要なところが不明だったのですぐには解決できなかったが。

 とりあえず「飛び杼」というぐらいなんだから杼が素早く飛ぶように動くんだろう。あとはできるだけ人の手を介する部分を減らすようにしようと研究を進めた。

 いろいろと試行錯誤した結果、ローラーを付けた杼を紐で横に振ることで行ったり来たりとできるように改良できた。これで布を織るのがかなり楽になるはずだ。


 そんな開発の日々を重ねた結果、無事機械化の目処がたった。


 とりあえず製品の特許申請だけは先行して行ったが実際の導入については慎重に行うことにした。これを急に導入すると職を失う人が出かねないと考えたためだ。

 モルガン商会としての対応としては機械を導入した新規工場を立てて、既存の職人、労働者たちをトレーニングしつつ少しづつ移行していくことにした。

 あとは給料の問題もある。今までは生産した分給料になる歩合制でよかったが機械式になるとそれだと釣り合わなくなるのだ。いろいろと考えたが既存の歩合制よりは高い給料になるようにはするが後々のことを考えて新規工場で働く労働者は時間給契約に変更することにした。


 結果的に生産力を爆発的に伸ばした新工場であるが、いきなり生産力が上がったため綿花の生産力が足りずに頭打ちになってしまった。

 まあ、あまり急に安い布製品を出しすぎても他から恨まれるので工場の稼働時間を抑えて余った時間は文字などの勉強にあててもらうことにした。


 そんな感じで徐々に生産力を増やそうと考えていたのであるが、本国の商会の特許侵害により生産機械が真似られ大変なことになっていくことはまだこの時の僕は知らないのであった。

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