第57話 魔物と城壁

 ニューヨークは比較的新しい都市であるが、その中でもなんだか古風な風景というものがある。


 なにかというと町の外側が城壁に囲まれているのだ。

 前世のヨーロッパなどでは大砲の登場により城壁は徐々に意味をなさなくなり、対大砲を想定した要塞に変わっていった。この世界でもそれは同様で大砲を想定とした防御のためには要塞を建てるのが今では一般的であるようだ。


 ではなぜ未だに城壁が作られているのかというと魔物が存在するからである。


 この世界での魔物というのは前世の感覚での例えで言うなら能動的に人里に降りてくる熊みたいなものである。軍や冒険者のような訓練された人間が十分な装備をしていれば対処ができるが一般人ではとてもじゃないが対処できない。

 そのため市街のまわりには対魔物を想定したある程度の防御ができる壁が必要というわけだ。特に視界が隠れる森の方面には重点的に監視がされており、冒険者も魔物の巣や近づいている痕跡がないかの警邏を定期的に行っている。

 モルガン商会としても林業部門の伐採等で魔物の生息域を刺激することがあるので、魔物については気をつけて監視をしている。


 ちなみに動物と魔物は明確に区別されている。熊などは脅威度的には魔物みたいなものだが一応は動物扱いだ。


 魔物を定義としては魔力の影響を受けているか否かで判断される。

 この世界には魔素溜まりという魔力の集中している土地があるのだが、魔物はそのエリアに集まる習性があり周辺を縄張りとすることがわかっている。

 体も一般的な動物に比べると大きく異形な部位があり、縄張りを犯すものに対してより攻撃的である。


 魔素溜まりにはポーションの材料となる薬草が群生していたり、山の近くにある場合には魔石などが採掘されるため人類としても重要な土地である。

 そのため魔物の掃討は定期的に行われるのだがそれでもいなくなることはない。


 魔物の発生要因にはいろんな学説があるのだが、一番有力だと考えられているのは周辺に住んでいる動物が魔素溜まりの魔力の影響で変質して魔物になるのではというものだ。つまりは自然発生ではなくなんらかの動物から変異したという考えだが確たる証拠は今のところない状態だ。

 これは魔物学者により調査が進められているのでいずれは解明されるだろう。


 あとやっかいなのが魔物から生まれる子供も魔物の特性を引き継いで生まれてくるということだ。それにより数が多く強力な魔物の集団となる可能性がある。

 そうなると集団で人里に攻撃を仕掛けてくる場合があり、その場合の被害は甚大なことになりかねない。そのため冒険者は街の近くの警邏を行っているし、場合によっては軍隊が派兵されて掃討作戦が行われることもある。


 話は戻るが魔物は人類の脅威であり、それの対処として城壁は未だに有効ということだ。幸いながら攻城兵器を扱うような知性のある魔物は今のところ観測されていないので城壁があれば魔物には十分対処できるだろう。

 壁は街の拡張にはちょっと不便ではあるのだが万が一のことを考えると無くすわけにもいかないというわけだ。


 今後誰でも銃を持つ社会にでもなれば話はまた変わるのかもしれないが、その時代はまだ当面先になりそうだ。

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