第55話 生と死
新大陸に入植し始めて28年目、年が明けてすぐ本国から連絡があった。
お世話になった初代総督が亡くなったらしい。手紙で最近体調を崩しぎみだととの話はあったが急な訃報だった。もう80歳近かったはずなので仕方がないことではあるがとても悲しい。
この世界で長命種として生まれて170年ほど、何人もの短命種の友人の死を見送ってきたが10年以上も一緒の現場で付き合いがあった人は数少ない。
遠方のため正式な葬式には間に合わないが、墓参りぐらいはさせてもらおうと海を渡り本国へと向かった。
総督の墓は王族や貴族の方々が入る共同墓所にあった。ここは本国の著名な教会に管理されている厳かな場所だ。
中央地域の一神教の人々は貴族でもあまり大きな墓を建てることはなく、墓石は上質だがシンプルな装飾の石版に名前が刻まれているものになる。
総督の墓の前に行くとすでにたくさんの花束が置かれていた。彼が生前から愛されていた証拠だろう。僕も自分の分と新大陸で関係者に託された分の花束を墓石の前に置き、祈りを捧げた。
一神教の考えとしては人間は死を迎えると精霊に導かれ天にある神の国へと案内されるといわれている。僕は一神教の信徒というわけではないが、総督はきっと天国へと行けるだろうとは思っている。
僕の種族や精霊教の教えとしては死後は祖霊として子孫を見守り、いずれ輪廻転生してまたこの世界に返ってくるとされている。
実際に前世の記憶がある僕としては輪廻転生説が信憑性が高いところではあるが、まあ天国ぐらいあってもいいだろう。そのほうが救いがある。
なんの因果か長命種として生まれ、前世の記憶を持つ僕のこの生の使い方はわからないが、死後総督に胸を張れるような人生を送りたいと思う。
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