第54話 魔術学院の日常

 魔術学院の運営が始まってしばらく経ったある日、校長先生からせっかくですし生徒の様子などを視察に来ませんかとの打診があった。

 たしかに魔術師の卵達が普段どんな生活をしているのか気になるところだ。施設が狙い通りに稼働しているかなどのチェックも行いたいし見学しに行くとしよう。


 そういう流れで共同出資者であるマセソン商会の代表ジェームスさんと一緒に学院の視察会を行うことになった。


「いやあ、私は家庭教師に勉強を見てもらっていたので学校の授業というのを見るのは初めてなんですよね。特に魔術学院なんて珍しくて楽しみです」

 とジェームスさん。僕も前世の記憶で学校は知っているが魔術学院はさすがに初めてなのでどんな授業が行われているか気になるところだ。


 最初の視察は錬金術の授業である。今回の内容はポーションの作成方法だ。


 ポーションは魔術師の専売特許みたいなもので、軍や冒険者、民間医療とあらゆるところで使用されている。これを売って生計を立てている魔術師は多いので実用的な意味でも重要な学問である。


 まずポーションの材料には魔力を帯びた特殊な植物を利用する。

 これは魔素溜まりと呼ばれる魔力が多く発生する土地に多く生えている植物で、僕も冒険者時代に何度も取りに行ったことがある。魔力の影響か花や葉がほんのり光っているのでわかりやすい。

 魔素溜まり近くには魔物が集まりやすいので採取には少し危険を伴う。なので基本的には冒険者が採取の代行を行うことが多い。

 一部魔素溜まりは軍が駐屯して管理されているが、そちらで採れるものは上流階級の医療や軍用に使われることがほとんどだ。軍で管理されていないその他の魔素溜まりについては民間用途に使って良いと冒険者ギルドに任されている。


 その魔素溜まりで採れた植物をすりつぶしたり蒸留したりしてポーションを作成する。品質は生徒によってまちまちみたいで、完成次第先生から品評をされていた。

 ジェームスさんはポーションを作る現場は初めてらしく興味深そうに見ており、「僕も冒険者時代にあの植物の採取をしてたんですよ」と言うと感心されたりした。


 次の視察は工学部の魔術回路学の授業である。

 魔術回路学というのは不思議なもので、魔力を様々な事象に変換する魔術師の根幹となる学問なのであるが、本質的ななところは実はまだよくわかっていないらしい。

 ただ昔の偉い魔術師が魔石から特殊な合金を利用することで魔力を抽出できること、その合金を伸ばして一定のルールで文様を描くと魔力を火や水などの事象に変換できることの両方を発見したとのこと。

 つまりある程度偶然から発見された学問なのだ。


 魔力によって出現した火や水はどこからきたものなのか不明で、一説によると他次元から魔術回路を通して召喚しているのではないかとの学説があるらしい。

 ただあくまでもそれは予想の一つであり、いろんな魔術師たちの間で活発に議論がされている内容であるとのこと。


 また昔の魔術回路は無駄が多かったが多くの魔術師達の研究のおかげで今ではどんどんシンプルな文様になってきているらしい。

 魔法陣のような複雑な文様のイメージがあるのは一般人に対して魔術回路を秘匿するためが主とのこと。まあ何も知らずに魔術回路をいじると大変なことになるので安全のためには仕方がないことだろう。

 ただ魔術回路というのは夢がある話で一般人からは憧れがある。ジェームスさんと講義室の後ろで授業を聞きながらそうなんだと盛り上がっていた。一応魔術回路については関係者外秘とは言われているのでここだけの話ではあるが。


 食堂でお昼を済ませた後、最後に攻撃魔術実習の視察に行った。

 魔術師は軍に所属したり冒険者になる場合も多いので、身を守るための魔道具の使用方法の習得も行うのである。


 魔道具は魔術回路が刻まれた道具類で魔石内の魔力を消費することでさまざまな事象を起こすものである。

 魔術というと前世だと杖の先から出すようなイメージがあるが、この世界で攻撃用途で実際に実用的なものは手榴弾型の使い捨て魔道具である。使う前に魔石をセットして相手に投げると爆発して火炎や電撃を浴びせるなどの効果を発動させる。

 あとは踏んで発動する地雷型や、縄のひっぱりで発動するトラップ型などがあり、なんというか魔法使いというより軍隊のような運用であった。まあ軍や冒険者ではたしかに有用そうではあるが、ちょっと夢がないなという感じだ。


 杖から炎や雷を出すみたいな魔術も理論上できなくはないらしいが、距離での威力減衰や魔石の消費量的にコスパが悪すぎるようだ。


 竜みたいな強力な魔物用の魔道具もあるが、それの運用も最近では大砲に入れて火薬で打ち込むという、より強力な弾薬のひとつみたいな取り扱いらしい。

 また必ずしも運用は魔術師が行わなければならないというわけでもなく、軍隊では魔術師は裏方で魔道具をせっせと作成する担当で実運用は訓練された常備軍が決められた手順に沿って運用するというのが普通のようだ。

 あと最近は魔術回路を刻んだ弾丸を込める銃型の魔道具も出始めたらしく、それの運用が本格的に開始されると怖いことになりそうだなと思った。


 そんな感じで一日かけて魔術学院をいろいろと見て回った。個人的には面白かったしジェームスさんも満足そうだった。


 僕は見た目のせいか何度か生徒と間違われてしまったので、今度は本当に転校生として潜入しても面白いかもなとちょっと考えたりもしたのであった。

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