第53話 関税と密貿易

 本国の新聞を読んでいると「またもや増税」のような見出しが最近ずっと多い。


 帝国との戦争が終わっても結局今度はダルトワ王国との植民地を巡る紛争が続いており本国の軍事費は右肩上がりのようだ。

 新大陸での銀収入も軍需物資の購入や国債の返済に使われているようで、本国では国庫を黒字にするために増税が繰り返されているらしい。

 最近だと窓の数を基準に課税する窓税や暖炉の数に応じて課税する暖炉税など珍妙な税金も導入されたりしているらしくむちゃくちゃな状況である。考えつくありとあらゆるものに対して税金が課せられているといっても過言ではない。


 本国はそんな状況だが一方で新大陸はというと平和な状況である。


 貸し出している土地に対する地税や一人当たりに課税される人頭税などはあるが、それらは基本的には新大陸内のインフラ投資などに使用されている。新大陸内での税金は基本的に新大陸内で使用する形になっており今のところ本国へはあまり渡っていないようだ。

 これはまだまだ発展途上であり本国と比べると収入が少ない新大陸に配慮しているからとも言える。税金の施行などは総督に一任されており、初代総督も今の二代目総督も有能で人格者なため必要以上の税金を取る方針ではなかったというのもある。


 ただ貿易に対する関税については別でこれは容赦なく取られる。


 僕もモルガン商船を作って国外を含めた海外貿易を始めてからわかったことだが、ハノーヴ王国は国内産業を保護するための重商主義政策をとっており国外からの輸入などにはかなりの関税がかけられている。

 これは安い穀物などの商品が入ってくることで国内の産業がダメージを受けることを防止するという目的があるため一概に悪いとは言えないが、貿易を生業とする商人たちにとってはかなりの痛手だ。せっかく安い商品を海外から輸入しても関税のせいで高く売らざるを得ないのだ。これはかなり売上や利益に響いてくる。


 そうなると一部の悪い商人たちは思いつく、「そうだ、密貿易しよう」と。


 取引を調査されて関税をとられる正式な港を経由せずこっそり陸に運び込むのだ。

 そうすることで関税を取られず正規品よりも安く売れるし、なんなら関税分の差額でかなりの儲けを出せる。


 これが蔓延すると割りを食うのが正規の関税を支払っている真面目な商人たちである。購入する側の市民からすると密貿易で入ってきた品のほうが安いわけで、事情なんか考慮されずそちらが売れてしまう。つまりは正直者が馬鹿を見るというわけだ。

 これを放置すると真面目な商人たちも生活のためにいずれは密貿易を始めてしまうので、国としても取り締まりは当然行っている。ただ海も国境も広いため防ぎきれず密貿易業者とのいたちごっこだ。


 モルガン商船としてはまじめに関税を支払っているが、密貿易業者のせいで正直かなりの損害を受けている状況だ。

 まあただ密貿易業者のものは取引の途中で混ぜものがあったりと質が悪いものが多いので、商品の品質と信頼という面ではうちのような正規の業者が勝っている。

 なのでモルガン商船としては信用第一で密貿易業者に影響されにくい上流階級向けの商品に重点して取引しており黒字経営にはなっている。


 ジェームスさんの経営するマセソン商会なんかは、うちと比べると海外取引量が圧倒的に多いので関税のがれをする密貿易業者にはほとほと困っているようだ。


「密貿易業者はね、地獄に落ちればいいんですよ」といつもの穏やかな顔のまま怒りを示すジェームスさんは本当に怖かった。「そ、そうですね」と答えながら、僕は赤字になっても密貿易は絶対にしないでおこうと心に誓ったのであった。

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