第52話 微生物と顕微鏡
ある日、マセソン商会のジェームスさんから呼び出しを受けた。
それほど急ぎではないとのことだったが、顕微鏡に関する質問とのことだったので仕事を手早く片付けた後ジェームスさんのもとへ向かった。
ジェームスさんは正直売れ行きのいいとは言えない顕微鏡の貴重なユーザーの一人だ。植物を育てるのが趣味のジェームスさんは花や葉などを詳しく観察する目的で顕微鏡を使ってくれている。最近は花粉の詳細を調べたスケッチなどをまとめて論文の作成もしているらしい。
ジェームスさんの自宅へ着くと、執事の方に案内されて私室へと通された。
「ああ、ヴィクターさん、お待ちしてました。ちょっとこちらに来てください」
ジェームスさんは僕を手招きすると、机の上の顕微鏡を覗くように促してくる。
見てみるとなにやら微生物のようなものが動いているのが見えた。ちょっと詳しくはわからないがゾウリムシかなにかだろうか。
「畑近くの水たまりが濁っている理由が気になったので観察してみたんですが、なにか花粉のようなものが動いてるんですよね。これはいったい何でしょうか。魚にしては小さいですし、動いてるのでレンズの汚れでも無いと思うんですが」
と、ジェームスさん。ああ、そうか。顕微鏡が広まっていないということは微生物もまだ発見されていなかったのか。当たり前の認識過ぎて逆に思いつかなかった。
「これは微生物ですね。本当にすごく小さな生物です」
僕の回答に、へえとジェームスさんは感心するが、……これってもしかしてこの世界だとすごい発見なのではないだろうか。
とりあえずジェームスさんは顕微鏡の故障ではないとわかって安心したようだが、そもそも微生物の存在が広まっていないというのは問題だ。ちょっと本格的に調べて世間に発表する必要がありそうだ。
ジェームスさんからその微生物のサンプルを借りて、僕は魔術学院へと向かった。
医学部の研究室にて教授にその微生物を確認してもらったところ、やはり初めて見たような反応をされた。そもそも顕微鏡自体僕が寄贈したもので初めて触ったらしいのでさもありなんという感じだ。
その後はいろんなものを学院の研究室で観察してもらうことになった。
今の顕微鏡の倍率でどの程度までいけるかなとは思ったが、微生物や細胞、精子などたくさんの発見があった。
ウイルスについては電子顕微鏡の登場を待たないといけないだろうが、医療分野での顕微鏡の価値というのが認識されたというのが重要だ。
微生物についての論文には第一発見者としてジェームスさんの名前も載せてもらった。ジェームスさんからは「ヴィクターさんがすぐ答えたので常識的なことなのかと思ってました」と疑問を持たれたが僕にはちょっと事情があるのでノーカンである。
また各種論文が発表されてからは顕微鏡の売れ行きが目に見えて増えていった。ミクロの生物の存在を皆が認識したのであらゆるものが観察対象となったのだ。顕微鏡を利用した観察をまとめた論文の数もどんどん増えているらしい。
シャーロットやエルミアさんからも顕微鏡は役に立つと再評価してもらったし売上も上がったしで僕も満足であった。ありがとうジェームスさん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます