第51話 文化と数字

 最近は東方地域の魔術師達との交流が増えてきて彼らの文化に触れることが多いのだがその中でも特に驚いたことがある。


 それは数字である。

 0から9までの数字の表記が前世のアラビア数字にほぼ一致していたのである。


 こんな偶然あるのかなと思って由来を調べていたのだが、どうやらこの数字は精霊教の聖書の編纂に関わった偉い人物が提唱した文字らしいとわかった。


 精霊教の司祭にその人物について詳細を聞いてみたところ、僕と同じ精霊術師で文字については精霊から啓示を得たとの言葉が残っているらしい。

 ただ僕も精霊術師なのでわかるが精霊からなにか言語を介した意思を伝えられることはないはずだ。そのためそれはきっと嘘だろう。


 これは予想だが彼には僕と同じように前世の記憶があったのではなかろうか。


 そう考えると辻褄が合う。他にも残っている彼のエピソードをいろいろと司祭の方から聞いたが、あきらかに前世の記憶があるとしか思えない話が多かった。きっと前世の知識を披露する際に精霊から啓示を受けたとごまかしていたに違いない。

 ただ残念ながら彼が生きていた時代は1500年ほど前らしい。聖書の編纂が終わった後彼は旅に出てしまったらしくいつ亡くなったのかは定かではないが長命種の種族だとしてもさすがに生きてはいないだろう。


 彼は精霊教の基礎を作ったほか、数学にも造詣が深かったらしくいくつかの数学書が残されていた。東方地域から複製本を取り寄せて中を確認してみたが、前世の数学書と同じような中身に見えた。

 僕にはよく理解できないものが多かったが知り合いの数学者曰く、彼の残した日記の中には未知の定理などの記載がたくさんあるらしい。


 おそらく彼の功績もあり数学は東方地域がかなり進んでいる状況だ。中央地域はそれが遅れて伝わってきているようだがこれはもったいないことだ。もっと技術交流をしなければならない。


 ひとまず僕にできることとして算用数字としてのアラビア数字の標準化を進めることにした。中央地域は一般ではローマ数字のような記号を用いた数字表記がまだ多数派なのだ。魔術師達の間では東方地域の数字をベースとした表記法がメジャーになりつつあるらしいが、これを商人たちも含めて使う方向に持っていこうと思う。


 ちょうどいいタイミングで魔術学院も開かれたので教授陣と相談のもと、アラビア数字を教育現場での標準とすることとなった。一般向けの算数の教科書も作成してもらったので、モルガン商会内での教育も少しづつ進めるつもりだ。


 このような相談の過程で僕がアラビア数字を用いた筆算や数式の記載に慣れていることがバレてしまい、教授陣にどこで覚えたんですかと聞かれてしまった。

 精霊に教えてもらったんですと冗談でごまかしたが、ちょっと本気にされてしまった気もするのでこの手の冗談は今後控えたほうがいいかもしれない。

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