第50話 魔術学院の入学式

 時は流れて魔術学院の受験も無事終わり、新入生たちの入学式となった。


 新しい魔術学院には偉い魔術師の方々が教授陣として名を連ねている。

 僕はあまり詳しくはないがエルミアさんから聞く感じだと魔術師界隈でもかなり有名な方々が来てくれたようだ。特に今回東方地域のスター選手みたいな魔術師の方が名乗りを揚げてくれたらしく、エルミアさんが珍しくかなり興奮した様子で話していた。自分も学生に戻って授業を受けたいくらいらしい。


 入学式には僕も来賓として呼ばれたので参列している。

 僕は魔術師ではないのでちょっとばかり気まずいが今回の学院の建造資金の大部分を出資しているからしょうがない。生徒の前で慣れないスピーチもさせられたし、立場を持つというのも考えものだなと思う。


 今回魔術学院には生徒たちの専攻として複数の学科が用意された。

 例えばポーションなどの薬物を取り扱う薬学部、医療や人体の研究を取り扱う医学部、錬金術を中心とした科学を取り扱う理学部、魔術回路や魔道具を取り扱う工学部などだ。他の学部は様子を見て拡充していく予定とのこと。


 あまり意識はしていなかったが魔術師には医者としての立場を持つ人も多いらしい。ポーションが回復薬として存在しているのもあるし、その他薬草類も魔術師が取り扱っているからだ。王室などに務める宮廷魔術師は医者でもあるのだ。

 ただ万能薬に見えるポーションも自然治癒力を急速に高める効果はあるようだが、一部病気には効果がない場合があるらしい。他の薬や場合によっては外科的な手術も試みられるようだが、西洋医学的な分野はまだ発展途上らしくかなり効果が怪しい施術もたびたび行われているようだ。

 そういった意味でも医学を専攻する学生の教育はとても重要であると言える。


 また理学部はエルミアさんなど蒸留酒で一躍有名になった魔術師の話が出回っているので人気な学科だ。モルガン商会としても今後いろんな素材の錬成を研究してほしいので力を入れてほしい分野である。

 爆薬や合成繊維などができれば理想的なのだが、その前に各種物質の特性の研究や化学式の研究などを進めてもらわなければならないと思っている。

 僕が化学式などを説明できれば早いのだけど、せいぜい水素(H)と酸素(O)で水(H2O)ができるとかその程度の知識だ。記憶しているだけの元素の周期表を書き出して研究所で確認してもらっているが、合成後の化学式なんてほとんど知らないのであまり役に立ちそうにない。具体的なところは今後優秀な彼らに研究してもらうしかなさそうだ。


 工学部については魔道具に関する学問になる。魔道具には魔術回路という複雑な文様を正確に刻む必要があり高度な数学知識が必要となる。また魔道具は火や水、物質の運動も取り扱うので物理学や工学的な知識も必要だ。なのでかなり複合的な知識のいる高度な学問となる。

 僕としては特に蒸気機関などを始めとした動力についての研究が進むことを期待している。研究所でもかなりいいところまで研究が進んでいるが、まだ大きな物体を効率的に動かす出力を得るところまでできていない。ガソリンなどの時代になればもっと複雑な機構が必要になると思われるので頑張って欲しいところだ。


 入学式に集まった生徒の顔ぶれを見る感じだと、みな緊張しているようだが優秀そうな生徒が集まっている気がする。今後の世界の技術を担う人材達がこの学院で強く成長できることを願っている。

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