第49話 魔術師と学園都市

「お、お願いします! ご、ご支援ください!」


 そう言ってエルミアさんがずいっと分厚い資料を差し出してきた。

 いったいどうしたんだろうと思って渡された資料を確認したところ、どうやらニューヨークの近くに新しい魔術学院を立てる計画が持ち上がっているとのことだった。


 新大陸には今や世界各国からたくさんの魔術師達が集まってきている。

 受け入れ体制を強化したことで東方地域の偉い魔術師達も滞在してくれているし、モルガン商会と提携していることで資金も他の多くの地域と比べると潤沢だ。

 最近はジェームスさん主導でマセソン商会も新大陸に研究所を建てたことなどもあり、魔術師たちがさらに集まる傾向が強まっている。


 そういう背景もあり、魔術師ギルドは新人魔術師を育てる土地としても新大陸が適しているのではと考え始めたようだ。

 魔術学院は本国に歴史のある大きなものがあるが、最近は戦争の余波で予算が絞られ気味らしい。新大陸には僕みたいな奇特な太いパトロンがいるのでそれをあてにもしているようだ。資料にも実現には僕の支援がある前提みたいな感じで書いてある。

 エルミアさんもそれが分かっているのかすごい申し訳無さそうな顔をしている。


「大丈夫ですよ。モルガン商会としても支援します」

 と答えて安心させる。魔術師ギルドにはお世話になっているしここは一肌脱ごう。

「あ、ありがとうございます!」

 エルミアさんはぱあっと明るい顔になる。たぶん魔術師ギルドから僕の説得役として頼まれていて責任重大だったのだろう、すごい不安そうな顔だったし。


 最近は銀山の収入やこれまでの軍需特需で資金にも余裕があるしそれを当てれば十分に足りるとは思う。せっかく作るならしっかりしたものを建てたいところだ。


 ◇


 ということで、モルガン商会の全面支援のもとニューヨークの近郊に学園都市の建設が始まった。


 本国の魔術学院は歴史があるので古代のお城を改修して使っているらしいが、今回の魔術学院は新築なので前世での大学みたいな感じだ。古代のお城にくらべればおもむきはないが機能性はある。


 学院の周りには薬草を育てるための農場や魔術の修行のための施設、モルガン商会やマセソン商会との提携研究所などいろんな施設も併設している。

 あとは学生たちが住むための学生寮や食堂も整備した。食堂は東方地域からの生徒の受け入れもできるように精霊教の人たちむけの料理人やメニューも完備だ。


 前世の大学の記憶を参考にして必要だと思うものはだいたい揃えたつもりだ。

 音楽室やクラブ活動のための施設も建てようとしたらエルミアさんに慌てて止められたけど。そんな貴族みたいな生活は恐れ多くてできないらしい。


 まあ確かに余計な施設を建てすぎても学費が大変かと考え直してある程度のところまでにはしたが、それでもけっこう充実した施設が出来上がったと思う。

 学生たちにも楽しいキャンパスライフをおくって欲しい。


 それで学生の受け入れを開始したのだが、予想以上に入学希望者が殺到してしまい倍率がとんでもないことになってしまった。

 嬉しい悲鳴ではあるがさすがに全員は受け入れできないため入学試験を慌てて整備しなおした。定員が埋まればいいぐらいに思ってたがこれは受験から難しくしないといけなさそうだ。


 キャンパスライフの前に、学生たちには受験戦争を頑張ってもらわないといけないらしい。大変だろうが優秀な学生たちが集まることを祈ろうと思う。

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