第48話 紅茶と能率
最近になってコーヒーハウスに新しいものが流通し始めた。
なにかというとお茶である。それも緑茶だ。
前世がおそらく日本人である僕にはすごく懐かしい代物だった。輸入で時間が経っているせいか正直味としてはいまいちだが、それでもかなり嬉しい。
コーヒーハウスの店主曰く、極東地域で新しい貿易相手が開拓されたらしくお茶はその国の特産品らしい。マセソン商会が主に取り扱っているとのこと。
なるほど、ジェームスさんに聞いて個人的にも購入しておこう。
◇
それからしばらく経つと今度は紅茶が出回り始めた。どうやら緑茶より紅茶のほうが保存が効くことに輸入業者が気がついたらしい。品質もたしかに緑茶と比べると紅茶のほうがよさそうだ。
紅茶のほうは緑茶よりも渋みがあるので砂糖を入れて飲むのが主流だ。牛乳で割って飲むのも広まった。
コーヒーよりも胃やお腹にこないので紅茶派の人たちも増えている。僕は緑茶派だが残念ながら店で取り扱いがなくなってしまったので仕方なく紅茶を飲んでいる。
新聞によると本国の王室でも紅茶がブームになっているらしく、上流階級の人たちがこぞって紅茶を嗜むようになってきているようだ。
また上水道が整備されていない関係で生水を飲むのが危険なためいままではビールやワインなどが安全な飲料水として重宝されてきたが、お茶は酔っ払わずに安全に飲める飲みものだとしても広まりつつある。
お茶は抗菌作用があるので衛生が不十分な水でもお腹を壊しにくいのだ。
モルガン商会としてもこれまで仕方なく社員が日中からビールを飲むのを容認してきたが紅茶があるなら話は別だ。アルコールを抜いてシャキッと働いてもらおう。
そんなわけで社員に飲用水として紅茶を支給するようにした。
アルコールが抜けたのもあるが紅茶には砂糖が入れてあるしカフェインも入っているので社員の能率が目に見えて上がっているようだ。これは嬉しい効果だ。
◇
そのうちに紅茶を中流階級以下の人々が飲むのも一般的になっていった。
コーヒーと違い薄くはなるが紅茶は茶葉を何度も使えるので安上がりなのだ。輸入量が増えてビールよりも単価が安くなり今や誰でも気軽に飲めるようになっている。
コーヒーハウスに変わって紅茶を専門として出すカフェも増え始めた。
コーヒーは専用の挽いたり濾したりする機器がいるが紅茶はティーポットがあれば十分なので参入も楽なのである。
あとコーヒーハウスは入場が男性のみのところが多かったが、カフェは女性も気軽に入れる店として盛況となっている。行きつけのコーヒーハウスの店主もとなりの区画にカフェを開店していたりするし実に商売上手だ。
僕も朝から紅茶を飲んで頭を覚醒させるのが習慣になってきたし、今後の社会は紅茶が牽引するのかもなと考えながら仕事に向かうのであった。
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