第45話 豚とジャガイモ

「しまったなあ……、ちょっと作りすぎた」


 僕は山となった農作物を目の前にして困っていた。

 これはなにかというとジャガイモである。商会では主にモルガン・ウォッカ向けの原料に使っており売上の増加に従って作付面積も増やしていたのだが……、ちょっと調子に乗って増やしすぎた。


 新大陸の市民の方々にも麦に変わる新しい食料としてどうですかと少しずつ紹介しているのだが、芽に毒があったり根の膨らんだ部分を食べるという見慣れない作物だしと食用としてはまだまだ広まってきてるとは言えない。

 なので用途としてはモルガン・ウォッカの原料としての消費が主であるのだが、植えてから3ヶ月程度で収穫できて種芋からどんどん増やせるという特性上すぐに需要を超えてしまった。種芋分を残してもかなり余ってしまうくらいだ。


 個人的に食べても消費しきれないし、潰すのももったいないしとどうしたものかと考えていたが、話を聞いた付き合いのある農家の方が潰してしまうぐらいなら飼育している豚に食べさせてもいいかと聞いてきた。

 冬の間は飼料となる麦が不足するので、冬になると豚は出荷需要以上に頭数を減らしてしまうのが普通らしい。ジャガイモを冬の間の飼料として使えるなら豚を必要以上に減らす必要がなくなるというわけだ。


 捨てるものもったいないしとすぐに了承し、余っている分は飼料用として農家の方々に安値で卸すことにした。

 卸した農家は冬の間ジャガイモを豚に食べさせ、無事に豚を減らさずに冬をこすことができた。そうすると噂が広がったのかその次の年にはうちでも使いたいという農家が増えてきて、確かに豚の飼料用として便利だとジャガイモを育てるようになっていった。


 結果として起きたのが豚肉価格の下落である。

 冬を越せる豚とともに出産する豚も増え、結果として食用肉として出荷できる分も増えたのだ。しかも専用の飼料としてたくさん食べさせているのでそのぶん肉も豊富についている。それが農家全体で起きたため高級だった豚肉は中流階級ぐらいであれば気軽に買えるぐらいの値段まで下がっていった。


 ジャガイモがここまで豚市場に波及するとは予想してなかったが、なんにせよ豚肉が安く買えるようになったので万々歳だ。これで野菜ばっかり毎日食べなくて済む。


 と、そこまではよかったのだが「ジャガイモは豚の餌」という印象も合わせて広まってしまい、余計に市民がジャガイモを食べなくなってしまった。


 このままだと原料として使っているモルガン・ウォッカのイメージにも悪影響である。なんとかジャガイモの食卓への普及策を練らないといけない。


 そこで目をつけたのがフライドポテトである。

 豚の増産と合わせて豚脂ラードも安くなったので、それでジャガイモを揚げてフライドポテトとして提供する外食チェーンを立ち上げる計画だ。

 外食産業への新規参入はまたシャーロットに小言を言われそうだがこれもウケるはずだからきっと大丈夫。


 結果的には大当たり。塩と香辛料と芋のジャンクな味が市民の舌を唸らせた。


 ただシンプルな作りと味付けのせいで目ざとい商人がすぐに参入。人が集まる通りにフライドポテトの出店が大量に立ち並ぶ一大ブームとなった。

 僕としてはジャガイモの市民への普及という目的は果たしたので、あまりその後は店舗の積極的な拡大は行わなかったが、世間的にはフライドポテト店の起業ブームはどんどん加熱していった。

 あ、これ前世でタピオカとか唐揚げとかのブームで記憶にあるやつだ、と僕は早々に店舗を引き上げたがたぶん後でひどい目に合う人達がいると思う。


 まあとりあえずジャガイモのイメージの回復と普及という目的は果たせたのだが、今度はフライドポテトの食べ過ぎで肥満になる人が発生してしまい「やっぱり芋は豚になる食べ物だ!」という与太話が広まって僕は頭を抱えたのであった。

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