第44話 老人と眼鏡

 望遠鏡や顕微鏡の開発でレンズの製法を確立することができた。


 レンズが作れるということはけっこういろんなことができるはずだ。

 天体望遠鏡ぐらいはできそうだしフィルムの問題が解決できればカメラもできる。


 他にはないかなとコーヒーハウスで腕を組んでううんと考えていたが、ふと他の席で新聞を遠くに離しながら見ている初老のおじさんが目に入った。


 見てて「老眼かな?」と思ったときにはっと気が付いた。

 ああ、眼鏡があった、と。


 そんな気づきもあってモルガン商会は眼鏡業界にも参入することに決定した。

「また思いつきで事業を増やして……」とシャーロットに呆れられたが思いついたんだからしょうがない。顕微鏡と違ってこれはちゃんと売れるはずだから大丈夫。


 まずは現状調査をしたところ新大陸の人々は老眼の他には遠視の人が多いようだ。

 つまりは近くが見えにくい人が結構いる。これは新聞などの小さめの文字を読むのに苦労するに違いない。知り合いの年配の方々もけっこう老眼に困っている様子だ。


 レンズはまだちょっと原価がかかるため、ひとまずのターゲットはお金を持っている上流階級のおじさまおばさま方にした。

 一応本国では眼鏡自体は存在しているみたいだが、新大陸では眼鏡屋は見たことないので参入すればうちの独壇場だ。メンテナンスも含めて対応できるようにしよう。


 レンズはとりあえず問題なさそうだったので、モルガン商会の眼鏡ブランドとしてはフレームの部分をこだわることにした。


 本国で出回っている既存の眼鏡は横のつるの部分が存在せず、ひもで耳にかけるタイプだった。なので横のつるの部分を足して耳にかけられるようにした。

 あとは鼻あても同様につけて、前世で見たことのあるようなデザインに近づけた。

 まあレンズは丸形で分厚いしフレームも正直ダサいけどとりあえずは及第点だ。


 試作品ができたのでコーヒーハウスの知り合いのおじさま方にいろいろ試してもらうことにした。見た目については「ちょっといまいちかなあ」と笑われてしまったが、かけごごちについては既存の眼鏡と比べても反応はよさそうだ。


 デザインについては今後改善していくとして、とりあえずは販売できそうだと判断しさっそくニューヨークの繁華街に眼鏡屋の一号店をオープンした。


 新聞に小さめに「この広告が見にくいと感じたら、モルガン眼鏡店へ」という広告を出したところ行列ができるぐらいおじさま方がぞろぞろとやってきてしまった。

 さすがに捌ききれないので連絡先を聞いて完全予約制にすることにしたがこんなに需要があるとは予想外だ。店舗とスタッフをもっと増やさないといけないと慌てて対応を行うことになってしまった。


 対応は大変であったが上流階級のお客様を中心に評判は上々であった。

 店舗も増強しているが予約が先々まで埋まった状態だ。


 ダサいダサいとみんなから言われていたフレームのデザインについてだが、最近は上流階級がみんなモルガン商会の眼鏡をかけてるせいで一周回っておしゃれ扱いになってきている。


 とはいえやっぱりどう考えてもダサいので、後世の人々に笑われないようにデザイナーを雇って早く何とかしたいと強く思ったのであった。

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