第43話 望遠鏡と顕微鏡

 本国の戦争は相変わらず続いていて終わる気配がない。


 おそらく領土や王権を求める戦争と違い、宗教という思想の対立での戦争であるためお互い終戦のための落とし所がなかなか見つからないのだろう。

 ただ新聞によると帝国で聖書派の貴族領の独立運動が起き始めているらしく、今回の戦争は帝国の分裂や下手すると解体と言う形で終わるのかもしれない。


 モルガン商会は本国から要請されている軍需物資を継続して作り続けている。

 大量に産出しているはずの銀は軍需物資の支払いで新大陸に大半帰ってきているのではないかという感じだ。


 そんな情勢の中、本国から新しい軍需品の生産依頼がやってきた。


 どうやらモルガン商会がガラス製品の取り扱いをしていることをどこからか聞きつけたらしく、海上や陸上偵察のための望遠鏡の生産をできないかと問い合わせが本国から来たのだ。

 作れるかどうか商会のガラス職人たちに確認してみたところ、レンズの作成は技術的に難しいがやってみようという話になった。ベテランの職人が経験はあるらしい。

 光学機器は前世でも値段が高いし生産には高度な技術が必要なものだという印象だ。開発にはエルミアさんたち研究員にも加勢してもらって取り組むことにした。


 ◇


 予想はしていたもののやはりレンズの作成にはかなりの苦労があった。


 ガラスの加工もそうだし、機械がない中その後の磨きや屈折率の調整など手作業が多く発生した。エルミアさんたち研究員の各種計算や熟練の職人たちの勘による調整などさまざまな試行錯誤があり、やっと望遠鏡の試作品が完成した。

 片目で見るタイプの筒状の望遠鏡でピント調整や大きさなどに多少難があるがとりあえずは使えるだろう。細かいところは今後改善していきたい。


 望遠鏡の完成とともに僕が思いついたのが同様に小さいものを見る顕微鏡はどうかということだ。エルミアさんたちに聞いてみた感じだと虫眼鏡ぐらいはあるようだが、顕微鏡というものはまだ作られていないか少なくとも広まってはいないようだ。

 こちらも製作にはけっこうな時間がかかったが望遠鏡の開発を経て職人たちも熟練していたのでなんとか完成できた。対象を乗っけるプレパラートもセットだ。


 ただ完成したはいいもののエルミアさんに「これは何に使うんですか?」と純粋な感じで尋ねられた。う、うーん。たしかに何に使えばいいんだろう。僕も小学校とかの理科の実験で使っていたぐらいでしか記憶にない。


 ぱっとは思いつかなかったので、とりあえず特許だけは申請して用途は他の人に考えてもらうことにした。知り合いの魔術師などにも見せているが反応は芳しくない。

 関係者には僕の思いつきで作ったお遊び製品だと思われてるみたいで悲しい。


 そんなことをマセソン商会のジェームスさんに話したら、試しに1個買ってくれることになった。趣味で育てている花やその葉っぱなどを詳しく見たいらしい。

 たしかに理科の実験とかで植物の細胞などを観察したなあと思いながら、製品のフルセットを渡し改善点があったら教えてくださいと伝えておいた。


 そのうちジェームスさんと同じような趣味を持つ商人や貴族たちからぽつぽつと購入依頼が来るようになった。植物の葉や虫の目や羽の観察などが同好の士の間で地味に流行ってきているらしい。


 研究というよりは趣味的な製品になってしまい正直ちょっと思っていたのとは違ったが、将来的にはきっとなにかに役立ってくれるはずだろう。

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