第42話 科学と魔力
世界各国から魔術師が集まったり東方地域の著名魔術師をゲストに迎えたりなど、最近商会の中でも研究所は特に活気だっている組織だ。
そんな研究所の職員である研究員たちには新しい蒸留酒の開発や蒸気機関の改良など商会の製品に関する研究を始め、魔道具の開発や科学や数学、物理学の基礎研究など多種多様な分野の研究を進めてもらっている。
僕は前世の記憶はあるものの科学や工学分野については素人なのもあって、研究の方向性だけは示すが細かい内容は彼ら専門家に任せるようにしている。
前世の自分がどんな人間だったかはぼんやりしているところがあるが、おそらく日本人で一般的なサラリーマンだったのではないかと思っている。ゲーム好きだったおかげか歴史に多少詳しいのにはこれまで助けられてきたけども。
前世が著名な科学者や工学者だったら話が早いんだけどなあと思うところもあるが、商会の経営が順調なおかげで支援できているだけ良かったと思おう。
彼らの進めている研究については、定期的な報告会で教えてもらっている。
特に注力しているのは蒸気機関の改良だが優秀な彼らでもなかなか難しいようだ。
現在の蒸気機関はポンプに使うような上下のピストン運動しかできないが、これをクランク機構と組み合わせてピストン運動から回転運動に効率的に変換できるようになれば鉄道などの分野に適用できると考えている。
工学を専門とする魔術師はほぼいないらしく、エルミアさんたち研究員にはいろいろと初めての試みをしてもらっている。各種職人たちとも力を合わせて試作品を作っているが、成果が出るにはもう少し長い目で見る必要がありそうだ。
また大事だと思って進めてもらっているのが各種基礎研究だ。
数学や物理学は工学に必要だし、科学も同様だ。数学については魔道具用の魔術回路の構築にも必要らしく、僕がざっと見た範囲ではかなり進んでいるように見えた。少なくとも僕の半端な知識ではわからないような高度な数式を彼らは扱っている。
物理学についても高度な魔道具の動作に必要なため魔術師の間で研究が進められているようだ。ただ魔力が絡むと説明がつかない不可思議な動作をすることがあるらしく、前世の物理学より考えることが多くて大変そうだ。
あとは科学であるが、こちらはまだ物質の基礎単位の原子などの概念が整理されていないようだ。各種物質の性質などの研究は進められているが、合成や分離などで変化する理由などが理論的に説明できていないらしい。僕が前世の知識を使って説明できればいいんだけど正直説明できるほど詳しくないので困っている。
またこの科学分野についても魔力という特異点があるせいで話がまたややこしくなっている。魔力を使うと火や水、風などを無から生み出すことができるのだ。せっかく組み立てた理論でも説明がつかないことだらけになってしまう。
あとはこの世界には魔力で加工できる魔法金属なんて不思議物質もあったりするし参ったなという感じだ。
ひとまず彼ら研究員には魔力が絡む場合と絡まない場合で完全にわけて物質の特性を調査してもらっている。
魔力はとてもおもしろい研究分野だが、この世界の科学の発展には障害になってしまうかもなと悩む今日このごろであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます