第41話 職場と多文化
モルガン商会グループも拡大してきたこともあり職員の文化も多様化してきた。
特に研究所などは研究費が潤沢だという噂を聞きつけてか世界各国から魔術師が集まってきている。最近は東方地域からも著名な魔術師が招待されたりしているし、商会経営にもグローバル化の波を感じるこの頃である。
文化の多様性は学術的な刺激を生むし良いことだが、商会で彼らを受け入れる際には当然気をつけないといけないこともある。特に宗教的価値観や食文化の違いなどで彼らに失礼なことがないようにしないといけない。
せっかく著名な魔術師の方々がわざわざこんな遠方までやってきてくれたのだ。おもてなしをしっかりしてできる限り長く滞在して貰わないと損である。
東方地域の主な宗教はざっくり言うと精霊を神として信仰する宗教だ。
中央地域の主な宗教である一神教では「神が世界と精霊、そして人間を生んだ」とするのに対し、東方地域の精霊教では「精霊自身が神であり、世界と人間を生んだ」としている。そのため精霊が人間と平等であるか否かみたいなところで大きな価値観の差異がある。
彼らにとって僕みたいな精霊術師は神の使いみたいな扱いらしく、東方地域では精霊術師は宗教組織の偉い立場に立っていることが多いらしい。中央地域では森で隠遁生活しているのと比べると歴然たる差だ。
ただ彼らの中でも「精霊術師は神を使役しているけしからん奴らだ」という考えの宗派もあったりして、東方地域だからといっても精霊術師が絶対に敬われるわけでもないらしい。
そんな彼らを受け入れる際に特に気をつけないといけないのは、精霊に定期的に祈りを捧げるための礼拝所が必要なことと肉を加工するには宗教関係者が対応しないといけないということだ。
前者については信仰先の神が違うので当然ながら一神教のための施設とは別に建設が必要だ。一緒に新大陸に来ていた精霊教の司祭の方に監督してもらって研究所の近くに礼拝所を建設した。
後者については商会の小売部門の精肉課に新しく精霊教の職人を雇って対処した。
彼ら曰く東方地域は暑い地域のため肉が痛みやすく、肉の加工には資格を持った人が対応しないと危険なことから派生して教義や文化になったのでは、という話であったがこれには諸説あるようだ。
また研究所に滞在している精霊教の方向けに対応済みの肉を使ったお弁当を提供するようにしたらとても感謝された。これまで東方地域の外に出ると宗教上の理由で動物の肉が食べられないことが多く大変だったらしい。特に魔術師は宗教に厳格な方が多いので戒律を無視してこっそり買うというわけにもいかなかったようだ。
整備には時間がかかったが宗教と食事の問題が改善されたことで、東方地域の方々も安心して長期滞在してくれるようになった。
そのうちに需要があるためか専門の食料品店や香辛料を効かせた東方料理のレストランも研究所の近くに建ったりして一角がエスニックな香りの道になってしまった。
僕も気に入ってすっかり東方料理の店の常連になってしまったし、美味しいご飯を食べながら多文化主義万歳と心のなかで唱えるのであった。
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