第40話 銀とインフレ
奴隷貿易に関する苦い敗北でしばらく鬱々とした生活をしていたが、こんなことをしている場合ではないと思い直した。
今までと目指すところは同じだ。前世のように世界の文化や技術が進歩すれば、いずれ奴隷は必要なくなり彼らも解放されるだろう。
今の僕のできることは限定的だが、蒸留酒の例のように前世の記憶を用いて世界に影響を与えることもできるはずだ。
そんな思いを新たにした直後、また情勢の変わる出来事が起きた。
新大陸で大規模な銀山が見つかったのだ。鉱山都市からトラヴォグが血相を変えてやってきて、いったいどうしたんだとおもったら銀鉱脈の発見報告だった。
これはさすがに大変なことだぞと現総督にもすぐに報告し、本国と管理についての調整を行うことになった。
発見された一部銀山の土地の権利はモルガン商会やその他の商会がすでに購入していたものの、この規模の銀山となると国家財政にも影響してくる。そのため商会の判断で勝手に開発するわけにもいかないと考えたためだ。
その後の本国からの回答は銀鉱脈地帯を国と商会での共同管理とするというものであった。具体的には国と関係する商会で共同の会社を作り、産出した銀については一度国家に納めるようにという契約だ。そのうち一定割合が商会の取り分となる。
契約文面上では開発は各商会の判断に任せるとは書いてあったものの、本音のところで戦費に困っている本国としては全力生産を求めてきた。
ただでさえ人手不足なのにと嘆きながらも、銀山の開発を商会の総力を上げて行うことになってしまった。国家事業のためある程度は本国から労働者を派遣してくれたがそれでも全然足りてない。
しょうがないので新聞各社に労働者募集の大規模求人広告を展開した。給料も可能な範囲で大奮発だ。すでに来ている労働者にも知り合いを連れてくるとさらに紹介料を支払うと伝えたりした。
そんなこんな大騒ぎした結果、新大陸にゴールドラッシュならぬシルバーラッシュみたいな状況が発生した。本国どころか中央地域の各国からも人が集まり、結果的に労働者不足自体はなんとか解消した。ただ浮浪者やゴロツキみたいな人も含めとにかくかき集められたため鉱山都市の治安がひどいことになったりもした。
そんな問題もありつつも生産体制は整いとりあえず一息つけるかとおもったら、さらに追加で問題が発生した。
なにかというと中央地域への銀の大量流入での物価のインフレである。同時期にダルトワ王国の植民地域でも銀山が見つかったこともあり、中央地域のインフレはさらに加速。最終的には物価が2倍から3倍にもなってしまった。
商人は価格を上げることで対処できたが、土地の長期契約で生計を建てている貴族たちの資金繰りは急速に悪化。これにより貴族たちの権力基盤は徐々に崩壊し、世界は商人たちの時代へと移り変わることとなったのである。
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