第39話 サトウキビと奴隷
これまで順調に発展を続けてきた新大陸だが、その発展を支えてきたのは定期的に送られてくる本国からの植民である。その内訳は基本的には耕作地をもらえない三男以下の農民などであった。
ただすでにかなりの人数が新大陸へ送られてきたことや長引く戦争で農村からの徴兵が増えたことにより、その本国からの植民がだんだんと滞ってきていた。
それにより困ったのが新大陸の農村部の人達である。
機械のない現在、農作物の需要に答えるためはにたくさんの労働力が必要だ。特に需要の大きい砂糖を生産するサトウキビ農園などは、麦などに比べて面積あたりの労働者が大量に必要であり労働者が足りないと困ってしまう。
かといってこれ以上本国から人を募集するのも難しい。帝国からの避難民など他国からの流入もあるが数としては全然足りていない状況だ。
そんな状況を打破すべくサトウキビ農園の経営者達から連名で上がってきた要望が奴隷労働者の全面許可である。南方大陸の王国から獣人の奴隷を購入して労働者として活用しようという案だ。
彼らは奴隷貿易を許可する法案を通すべく利害関係者である商人たちを巻き込んで本国や新大陸の議会で大規模なロビー活動を始めた。
僕や良識的な議員はさすがにそれは人道的に正しくないと反対した。ただ彼らは勢力として圧倒的であったし、そもそも主導している彼らのサトウキビ農園はモルガン商会の砂糖買付先でありうちの商会も利害関係者なのだ。
これ以上反対するなら砂糖を今後卸さないと脅迫されたり商会の職員が嫌がらせを受けたりしたため悔しいが折れざるを得なかった。
そうした流れでとうとう本国で奴隷貿易を許可する法案が通過した。
その結果、南方大陸へ奴隷の買付を専門とする商人が次々と訪れ、獣人の王国から奴隷を購入し新大陸へ輸出を開始した。奴隷購入の対価は大量の武器と彼らが製造技術を持たない蒸留酒であった。モルガン商会がきっかけで広まった蒸留酒が奴隷購入に使われているという事実にも僕は大いに苦悩した。
モルガン商船などには奴隷貿易には絶対に関わらないようにと厳命したが、砂糖や綿花の仕入れなどで間接的に関わっている以上、偽善でしかないなと感じている。
こうして奴隷労働者の流入によりサトウキビ農園を始めとした農村部の労働力問題は解決に向かっていった。ただ南方大陸は武器の大量流入の影響でより戦争が激化しているという話だし、新大陸の奴隷労働者は今後多くの社会的な問題を生むだろう。
奴隷事業に関わりたくない気持ちはあるが、砂糖や綿花などの仕入れは止めるわけにはいかない。モルガン商会にも養うべき社員がいるのだ。僕が辞めても現状は何も変わらないし、それに個人の意思で勝手に辞めるには商会は大きくなりすぎた。
これまでのように商売のきれいな面だけ見ていられないなと寂しさを感じていた。
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