第36話 魔術師と蒸留酒

 モルガン・ウォッカの売上は上々で商会の中でもかなりの売上を誇っている。


 この酒の利益の一部は新大陸の魔術師ギルドの取り分となり、彼らの研究資金として活用されている。以前と比べると段違いの研究資金を得た彼らのギルドは、目覚ましい研究成果を次々と発表しており彼らの業界でも注目の的となっているようだ。

 そんな状況のため新大陸の魔術師ギルドには金の匂いを嗅ぎつけた魔術師達が世界中からどんどん集まってきている。魔術師が金欠なのは世界共通みたいだ。

 そのうちでも特に優秀な魔術師が商会の研究所に派遣されてきているのでうちとしても助かってはいるけれども。


 そのうちに本国や他国の魔術師ギルドもどうやら蒸留酒は儲かると気が付いたのか彼らは独自に蒸留酒の開発を始めたらしい。

 各国でとりあえず身近なビールやワインをもとに蒸留酒を作成するのが試みられたようで、市場にビールが元のウイスキーや、ワインが元のブランデーらしきものが徐々に流通し始めた。

 ジャガイモは世界的にはまだあまり栽培されていないので、モルガン・ウォッカの独自性は保たれているがあまりうかうかとはしていられなさそうだ。


 ただ本国や他国の魔術師ギルドは相変わらず商売が下手なようで、製造方法だけ商人に取られて利益はぜんぜん上げれていないらしい。まあモルガン商会の契約がこの時代にしては良心的なだけで他の商人が特別悪いというわけではないだろうけど。


 と、そのような流れで広まった関係もあり、蒸留酒は魔術師によってもたらされたお酒というイメージが一般になってきているようだ。

 商品広告やパッケージにも魔術師をイメージした魔法陣のような紋章や、〇〇印のウイスキーみたいな著名な魔術師の名前を冠した商品が出回っている。


 うちの商会も便乗してエルミア・ウォッカというエルミアさんの名前を冠した高級ブランドを展開したところ上流階級を中心に結構な売上になったりした。珍しく魔術師達もこぞって購入していたしエルミアさんはけっこう界隈には有名な人らしい。

 エルミアさんは自分の名前が付くのを恥ずかしがっていたが、利益の半分をエルミアさんに渡す契約になっていたので「け、研究資金……」と言って折れた。ちょっとかわいそうだったかもしれない。

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