第35話 海運事業と海賊
クーデターのニュースで一時騒然となったものの、新大陸は現在は平和な日常へと戻っている。
本国の新聞が届くのは海を渡る関係で最短でも10日ほどタイムラグがあり、新聞が届いて知った頃にはもうすでに一連の騒動は終わってしまったあとであった。
無血革命とは新聞に書いてあったものの、念のため前総督やリューリクなどの知り合いには安否確認の手紙を出したがどうやら皆無事なようで一安心である。
ただ本国の周辺の状況も怪しいし、これまでのように頼りきりではいけないと僕も考えるようになりだした。
モルガン商会の新大陸内での流通は商会内の運輸部門、小売部門ですべて賄っているが、新大陸の外への輸出についてはマセソン商会を始めとした本国の商会を通すようにしていた。外洋船や乗組員の確保など海運事業は参入するには必要な初期資金もリスクも大きかったからだ。
ただ長い目で考えるとやはり海外との流通を本国の商会にすべて握られたままというのも良くないだろう。今回のように本国の政治問題もあるし、なにより前世のアメリカのことを考えると新大陸の独立戦争がいつ起きてもおかしくはないのだ。
そういう考えでモルガン商会も海運事業へと参入することにした。
とはいえ海運事業は危険な仕事である。純粋な航海というだけでも危険なのに加えて、海賊からの略奪や海の魔物からの襲撃の防衛をしないといけない。
それに長期の航海になると壊血病の問題がでてくる。ビタミンCが発見されていないこの時代では壊血病によって多くの船乗りが病死しているのだ。これも対策しないといけない。
海運事業に参入するにあたって、事業の先輩であるジェームスさんにも相談してみた。マセソン商会としては海運事業に参入したら自社の競合になるにもかかわらず快く相談に乗ってくれた。持つべきものは友である。
ジェームスさんからは本国の造船所の紹介とマセソン商会の型落ちの船の販売をしてもらえた。船の建造には結構長い時間がかかるため早めに依頼する必要があるようだ。
新大陸にも造船所は立ち始めているがまだ数は多いとは言えない。モルガン商会としても先々のために造船事業にも投資をすることに決めた。
船が用意できたのであとは乗組員の確保である。こちらも幸いなことに元冒険者で新しく海運事業を始めようと準備していた人たちがいたため、共同で会社を起こすことになった。
資本金としては彼らが5割、モルガン商会が4割、残り1割をなんとマセソン商会が出資してくれた。マセソン商会からは事業の顧問も派遣してくれるらしい。なにもかもを手伝ってくれてジェームスさんには頭が上がらない。
これにはもちろんジェームスさんの好意が大きいが、昨今新大陸航路でも海賊の襲撃が活発になっているらしく共同で防衛できる船団があるとマセソン商会としても助かるらしい。
こうしてモルガン商船株式会社が新しく設立された。しばらくはマセソン商会の貿易業務の一部を請け負う形で外洋航海の訓練をしている。
徐々に慣れてきた様子なので少しずつ遠くの航路へも広げていく予定だ。今後が楽しみである。
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