第33話 石鹸と歯ブラシ
僕が始めた衛生環境向上キャンペーンはその後も順調で、少しづつであるが公衆衛生という概念が世間一般に広まっていっていると感じている。
民間で変化があったのは公衆浴場の広まりである。
上水道がまだちゃんと整備されていないので作りとしては前世日本の銭湯というよりは蒸し風呂に近い。
新聞でも宣伝しているように体を清めるのは病気の予防に効果があるし、なによりさっぱりして気持ちがいいとして都市部の中流階級以上の人々が好んで通うようになってきているようだ。
そんな中需要が増え始めたのが石鹸である。
石鹸は風呂で使うとよりきれいになるし手を洗うのにももちろん使える。あとは服を洗うのに使うとノミやダニが減るといいことだらけだ。お金を持ち始めた中流階級にはぴったりの商品である。
これは商機と考え商会でも石鹸産業に参入することにした。
石鹸の材料は油とアルカリ剤、例えば木や海藻の灰などである。油の種類は豚や牛などの動物性の油でもオリーブのような植物性の油でもどちらでもよいが、臭いの問題から植物性の油のほうがより好まれる。
とはいえ需要に答えるため安めの商品も必要だと考え、動物性油を利用した安めの石鹸と、高級路線の香りの良い植物性の石鹸の2種類を販売することにした。
石鹸自体はわりと簡単に作れることから多数の商人が参入したため全体の売上としてはぼちぼちという感じであったが、高級路線の植物性石鹸は上流階級向けによく売れた。
まだちょっと価格が高いため市民全員が買えるというほどではないが、それも経済の成長がいずれ解決してくれるだろう。
他にも販売を促進した商品がある。それは歯ブラシと歯磨き粉である。
実は個人的に僕が欲しかったので以前から少量生産はしていたのだが、砂糖入りジュースの販売による虫歯の増加や昨今の衛生意識の高まりを受けて一般向けの増産を決定した。
とはいえナイロンやプラスチックなどがないため、歯ブラシの素材としては馬の毛や鯨のひげなどを利用したものになり価格はどうしても高くなる。なのでまだまだ上流階級向けの商品ではある。
どうやら今の中流階級以下では爪楊枝や布などで歯を磨くのが一般的らしく、ここらへんも将来的に解決しないといけないなとは考えている。
歯磨き粉は塩や灰にハーブなどを混ぜた粉末状のものであり、わりかし原始的である。正直無いよりはマシぐらいな感じだ。
前世の歯磨き粉はチューブ入りのペーストだったし、フッ素化合物などが入ったちゃんとしたものだったがそこまでたどり着くには結構な時間がかかりそうだ。
長寿のエルフであっても虫歯には勝てないようなので食後の歯磨きは欠かさずするようにしている。その習慣のおかげで今のところ虫歯はないが、今後も気をつけたいところではある。
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