都市化の時代
第32話 都市化と衛生
前総督の功績もあり大都市へと成長したニューヨークであるが、都市化により人口密度が高まるということはもちろん良いことばかりではない。
僕が最近特に気にし始めたのは都市の衛生問題である。
繁華街などはさすがによく掃除されているが、少し脇道に入ると非衛生的な光景やすえた臭いにすぐに気がつくだろう。
ニューヨークは比較的新しい都市のためこれでもまだマシな部類ではあるが、上水道は富裕層のエリアに少しあるぐらい、下水道などはまともに整備されていない。
前世のヨーロッパの話で聞いたことがあるように汚水を道に放り投げる人々もいたりするし感染症の流行も定期的に報告されている。
このままだと市民の死亡率も高くなるし、流行病がいつ発生してもおかしくない。
そんな危機感を持っているのも現状前世の価値観を持っている僕ぐらいなものらしく議会でも新聞でもあまり話題に上がることはない。
皆一般的な公衆衛生のレベルなどこんなものだと思っているということだ。
こうなると世論からまず変えていくしかない。そもそも衛生的なことが良いことという価値観を持たない人たちにいくら手を洗おうなどと言っても意味がないのだ。
そうだ誰もやらないなら自分がやるしかないと決意した僕は積極的な衛生環境向上キャンペーンを始めることにした。
まず手始めにと自社メディアのモルガン・タイムズにて衛生問題に対する提言のコラムを追加した。
例えば「都市の汚染が深刻化」「汚染による病気の蔓延」「非衛生な町は観光評価にも影響し経済に打撃」「市内の汚染の影響により病気になり死亡したAさんの手記」などなど、学術的な視点や経済的な視点、感情的な視点などいろんな角度から衛生問題に関する世論への問いかけを行った。
そうするとコーヒーハウスで流行に敏感な人たちが市内の衛生問題について討論しだすようになった。よしよし狙い通りである。
話題が始まると僕も便乗して討論を行うようにし、段々と衛生問題はコーヒーハウスを中心としたコミュニティのホットトピックへと変わっていった。
そのうちに貴族や議員、商人などの多くが今の市内の衛生には問題があり、このままだと良くないという問題意識を持ちだすようになった。他社の新聞でも衛生問題がよく取り上げられるようになり、一部は本国の新聞にまで波及した。
世論を味方に出来れば次は政治の出番である。
僕は近い議員を巻き込んで議会でのロビー活動を開始した。幸い事前にコーヒーハウスにて多くの議員の同意を取り付けられていたので、議会でもそれほど苦労することなく関連予算の確保や法律の制定を進めることができた。
こうして世界に先駆けて新大陸では大規模な下水道の整備が進むこととなった。
また合わせて風呂は健康に良いなどとも呼びかけていたら、公衆浴場がブームになりたくさんの施設が新規で建造されたりもした。蒸気機関でのポンプ技術や石炭鉱山の大規模化で燃料が安くなっていたのもそれを後押しした。
衛生問題の解決に向けた活動がこれで無事進むこととなったのであるが、ちょっとうまく行きすぎて自分でも驚いてしまった。
マスメディアを自由に操作できるというのはやっぱり強力で怖いことなんだなと改めて実感することとなったのである。
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