第30話 投資と銀行

 前回初めて訪れてからというもの、知り合いにたびたびコーヒーハウスへと誘われるようになってしまった。


 ギルドや商会の経営はシャーロットを始めとした優秀な事務員達のお陰でそつなく回っている様子なので大丈夫だとはおもうけれども、あんまり行き過ぎてるとさすがに怒られそうでならない。


 まあ代表としてこういう接待も仕事だと自分に言い聞かせ、今日もニューヨークの繁華街にあるコーヒーハウスへと向かった。


 最近はマセソン商会のジェームスさんもコーヒーハウスがお気に入りのようで、機密性の低い商談の際にはこの店が指定されることが多い。今回僕を呼び出したのもジェームスさんだ。


 ジェームスさんは出会った当時は若かったが、7年以上たった今では貫禄も付き仕事のできる男の風格を漂わせている。実際にマセソン商会内での地位も新大陸での成果でかなり高くなっているらしい。

 対して僕の見た目は未だに20代の若者という感じだ。ひげも生えてないし。実際の年齢は150歳を超えているんだけども……。


 商談については問題なく終わり最近のお互いの状況についての話になった。

 モルガン商会としては商売はどの部門も順調で魔術師ギルドと契約して作った研究所のお陰で生産性の向上や新商品の開発にも役立っている、と伝えたところ「そんなやり方があるんですか」と驚いていた。


 魔術師ギルドはポーションの卸売りぐらいでしか商人と接点を持つことがなく、そういった協力事例は今まで聞かなかったらしい。

 ジェームスさんも「うちでも真似するべきか……」などと考えていたので魔術師ギルドもきっと喜びますと伝えておいた。なんならうちから紹介してもいい。


 またコーヒーハウスで知り合いが増えた関係で事業への投資の依頼も増えてきたという話にもなった。話を聞くとジェームスさんも同じらしい。


 モルガン商会は新大陸でも最大手で資産にも余裕があるし、もちろん有望な事業であればどんどん投資したいとは考えている。

 ただ事業の将来性や相手が実は詐欺師でないかなどの調査の負担を考えると、知り合って仲良くなったからといって簡単に投資を決定するわけにもいかない。


 そんな話をしていたらジェームスさんから提案があった。

 マセソン商会とモルガン商会で共同で銀行を作ってそこで事業の査定や信用調査をするのはどうかという案である。人材と資金をお互いの商会から出し合えば査定の相互チェックや資金の負担軽減もできるだろうという考えだ。

 それはいいアイデアだと同意し、しばらく後にマセソン・アンド・モルガン銀行がニューヨークに設立されることになった。


 査定の結果、かなりの件数が投資詐欺または事業性に難ありな案件でジェームスさんとふたりで頭を抱えることになったが、少数ではあるが有望な案件もありそれらには共同で出資を行うことになった。


 将来的にそれらが成功することを祈るばかりである。

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