第29話 コーヒーハウスと政治

 新聞を発行し始めてから結構な時間がたったが、新聞を納入している商業施設の中に興味深いものができ始めた。なにやらコーヒーハウスという店らしい。


 興味本位でその中でも一番大きな店に行ってみたところ、どうやら喫茶店みたいな施設らしく店内には懐かしいコーヒーの香りが漂っていた。

 店の棚には各種新聞や最近出始めた雑誌などが置いてあり、お客さんは誰でも自由に読むことができるらしい。


 とりあえず空いている席に座ってメニューを確認してみたところ、コーヒーにチョコレート、それにタバコなど高価ではあるものの珍しいものがいくつも置いてある。

 タバコは吸わないので試しにコーヒーとチョコレートを注文してみたが、値段のわりには味はそこそこという感じであった。注文を持ってきてくれた店主曰く海外から取り寄せている珍しい品らしい。

 チョコレートは固形のものを想像していたが、ココアのような砂糖入りの甘い飲み物であった。どうやら飲料として飲むほうがまだ一般的らしい。


 店の中はなにやら難しい討論をしている集団がたくさんおり、わりかし騒がしい様相であった。タバコをもくもくと燻らせているのであまり近づきたくはない。


 遠目から眺めているとその中に知り合いがおり、目が合うと手を上げて近づいてきた。僕と同じ下院議員の人だ。所属している党は違うが話したことはある。

 話を聞いてみると、このコーヒーハウスは最近議員や貴族、商人などのたまり場となっており、政治談義や情報交換、商談などで盛り上がっているとのこと。


 しばらく二人で話していると色んな人が近くに寄ってきて話しかけてきた。


 僕もギルドや商会の代表、それに議員を務めてはいるので関係者には顔を結構知られている。お互い紹介しあった後話してみて分かったが、たしかにここにはいろんな有力者や知識人が集まっているようだ。

 昨今の政治情勢についての話や、最近の市場の状況などの話をしていたらすっかり時間が経ってしまった。これは入り浸るのもよくわかる。


 知り合った商人とは商談の話を、知識人には新聞への寄稿などを依頼した。


 どうやら本国では民間人が政治の話をするのを王室や一部の貴族がよく思わないらしく、コーヒーハウスの規制の話もあったそうだ。ただ入り浸っているのが資産家や貴族という有力者であるため規制については猛反対にあいすぐ取りやめたとのこと。


 新大陸ではそもそも民間の議会があるし、総督がそういった規制には興味がないようなので本国よりずっとやりやすいと店主が言っていた。


 僕もその後ちょくちょく通うようになるコーヒーハウスであるが、こういった場が社交や議論の場となりこの後の時代の政治や文化が育まれるのであろう。今後が楽しみである。

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