第28話 ガラスと砂糖水
本国側で戦争が開始したことで帝国の聖書派の人々を中心に戦禍を逃れて新大陸へ渡ってくる人も増えてきた。
その渡ってきた人々の中には魔術師や職人など優秀な人材も多く、モルガン商会としても彼らを積極的に雇用する方針をとっている。
そういった流れで新たに雇用できた専門家がガラス職人である。
彼らは主に帝国で活動していた優秀な職人たちであり、透明なガラスを作る技術を持っていた。モルガン・ウォッカの生産を取り扱っている商会としても、容器となるガラスの生産が自前でできるようになるのはとても助かる。
彼らを雇用後は大きなガラス工場をニューヨークに建設、生産を開始した。
ガラス容器や窓ガラス、鏡など売れ筋商品を次々に開発し、ガラス部門はまたたく間に商会の稼ぎ頭へと成長した。借金もこの調子でいければすぐに返せそうだ。
自前の工場を持てたことでモルガン・ウォッカの容器も規格化ができるようになり生産性も大幅に増加した。
労働者の雇用も十分だしそろそろ新しい商品を追加してもいいかもしれない。
そう考えた僕が次に選んだ商材は「砂糖水」である。新大陸周辺は温暖でサトウキビの生産に適した場所が多く砂糖の安定供給が見込めるのだ。
砂糖は少し前までは香辛料並みに高価であったが、新大陸など新規植民地での大量生産がされるようになったことで十分に手の届く価格帯になってきている。
清涼飲料水の需要は莫大である。前世でも株式市場のトップグループに飲料を取り扱う会社がいたのを憶えている。モルガン商会の参入も十分に見込みがあるはずだ。
そうして商会はサトウキビ農場や果実農場への大規模な投資を開始、砂糖やフレーバーとなる果実の供給網を確保した上で飲料工場の建設を行った。
最初に生産したのは柑橘類の果汁と砂糖水を混合した甘いジュースである。砂糖水はわりと保存が効くのも利点で、冷蔵庫のないこの時代でも遠くまで配送することができた。
そんなジュースの売上だが大当たり。作れば作るほど売れるような状態となった。
生産も中身に詰めるジュースというより容器であるガラス瓶の生産が間に合わず、モルガン商会の店にきれいなビンを持ってきたら一部返金みたいな回収キャンペーンを張ったりしたりもした。
マセソン商会のジェームスさんも気に入ってくれて本国や外国への輸出も開始し、さらに需要が拡大。売上の増加につれて工場も順次拡張し、ジュース工場の周辺は常に砂糖の甘い匂いが漂う一画となった。
ただジュースの売上が絶好調なのはよかったのだが、弊害として虫歯になる人々も増加。日常的な歯磨きを推奨する予防歯科運動をモルガン商会で行うことになったりもしたのであった。
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