第24話 国家と宗教
「まずいことになりそうだ、戦争がおこるかもしれん」
総督が新聞の本国のニュースの欄を読みながら不穏なことを呟いた。
僕が故郷の森を離れてから40年近くになるが、ハノーヴ王国は周辺国と小競り合い程度の問題はあったものの平和な状態だったという認識だ。どうしたんだろう。
この世界の今の政治体制は前世で言う絶対王政の時代である。王室への中央集権化が進んでおり、政治を多数の中央官僚が支え強力な常備軍を備えている。
ハノーヴ王国は周辺国の王室同士で婚姻同盟を結んでおり、獣人などの亜人を中心とした国家群や敵対的な宗教観を持つ異教徒の国家群から協力して国を防衛する方針を取っていた。それらと血みどろの戦争となっていた時期もあったが近年はパワーバランスも安定し、国交も回復して王国としては平和な状態となっていたらしい。
「東方のザリエル帝国の代替わりがあったんだが、新しい皇帝が熱心な宗教家でな。最近国教の主流派以外の宗派を国内で禁止することを表明したらしい」
「それはまた抗議が起きそうですね……」
どうやら新しい皇帝による宗教弾圧を発端とした争いが始まりそうみたいだ。
この世界のハノーヴ王国とその周辺国は前世で言うところのキリスト教のような一神教の宗教が国教となっている。
最近は教皇を中心として組織化されたいわゆる主流派と呼ばれる宗派と、聖書に書かれた内容を絶対視する聖書派という宗派の二つが主なようだ。
聖書派は活版印刷の普及で聖書を読める人が増えたことで徐々に増加した派閥である。彼らは「主流派は世俗的となっており聖書の教えから離れつつある」と現在の主流派を否定するような強めの論調を取っておりお互いあまり仲が良いとは言えない。
総督は新聞を読み進めながら言う。
「もう抗議は実際に起き始めているようだ。それに加えて聖書派を支持する国々が弾圧するようなら武力行使も辞さないと帝国に圧力をかけ始めているらしい」
けっこうすでにまずい状況のようだ。このままだと前世でのカトリックとプロテスタントの宗教戦争のようなものが始まるのかもしれない。
「それでハノーヴ王国はどうする感じなんですか」
「わが国は今の王が聖書派だからな……。帝国とは敵対する可能性が高い」
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