第23話 鉱山と大気圧機関③
しばらくたった後、エルミアさんから試作品ができたとの連絡がきた。
行ってみると研究所のそばの井戸用のポンプが改造され、なにやら機械がくっつけられている。機械の構成としては上下に動くピストンがあり、その下に蒸気を作る水釜が設置されているような感じであった。
「し、所長。た、多少効率は悪いですが動作には問題ないかと……」
と、エルミアさん。僕の曖昧な指示からこんな早く実現するなんてやはり優秀だ。
ちなみに所長というのは僕のことだ。一応はこの研究所のトップである。
早速動作を見せてもらったところシュポシュポと蒸気を吹き出しながらピストンがゆっくり動き出し、やがてガシャガシャと軽快に動き出した。ポンプからも勢いよく水が流れ出している。
「すごい! 完璧じゃないですか!」
「あ、ありがとうございます。じ、蒸気を作るのと冷やすのに魔石を使っていますが、こ、これぐらいであれば費用としても現実的かと……」
どうやら細かい制御は魔石を利用して簡略化しているらしい。つまりはこれは魔道具でもあるということだ。
話を聞くとある程度小さいサイズであれば動作には小さい魔石だけでも可能、大きいサイズでも燃料を足してやれば十分稼働できる見込みとのこと。
とりあえずはこれで行けそうだと判断し、大型版を設計してもらったあと提携している鍛冶屋に依頼して鉱山用ポンプの蒸気機関を作成。
完成したものを馬車へ積み込むとさっそく鉱山都市へ向かった。
◇
「おいヴィクター……、お前のことは信用してるがこれは大丈夫なんだろうな」
トラヴォグはすこし心配そうに蒸気機関の取り付けられた大型ポンプを眺めている。その他の鉱山労働者もなんだなんだと野次馬として周りに集まって来た。
たしかに巨大なピストンや水釜など見た目がちょっと派手なので言いたいことはわかる。まあ事前に耐久テストはしているし爆発などもしないと思う、たぶん。
起動用の魔石を取り付け、水釜の下の燃料にも着火させるとやがてゆっくりと動き出し、やがてガシャン、ガシャンとピストンが稼働し始めた。水も引き上げられているし動作としても大丈夫そうだ。
「おお、すごいな! こんな小さい魔石と燃料で馬並みの力をだせるんか」
動作を見てトラヴォグやその周りの人々も驚いている。
一緒に来たエルミアさんたち研究員も正常な稼働に胸をなでおろしていた。
◇
その後の蒸気機関の売れ行きであるが、トラヴォグが宣伝してくれたらしく本国の鉱山都市群からも次々に発注がやってきた。
ポンプが大型なこともありモルガン商会の規模では生産や輸送が間に合わず、本国の大手商会にもライセンス提供を行い別途生産してもらうことになった。
こうしてこの世界にも動力革命である蒸気機関が広まることになったのである。
ちなみにその影響で新しい収入源ができて大変助かりましたと本国の魔術師ギルドからも感謝状が届いたりした。
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