第22話 鉱山と大気圧機関②

「じ、蒸気を利用してポンプを動かすですか。そ、それはまた……」

 ニューヨークに帰還すると、さっそくエルミアさんたちに依頼を出した。


 前世の知識から実現性があることや大きなポンプを動かせるだけの動力が得られるのは知識として分かっているが、実現方法についてはちょっと曖昧だ。

 前世でどういう人間だったかは記憶にもやがかかっているが、少なくともこういうのが得意なエンジニアではなかったらしい。そこはちょっと悔やまれる。


「うーん、温めた蒸気をまずはピストンの中に入れて……、たぶんその蒸気を冷やすと体積が減るのを利用して動かせばいいのかな」

 とりあえず蒸気機関というぐらいだから蒸気を利用するのは確実である。

「く、詳しいですね。た、たしかに蒸気にはそのような性質が……」

 前世の小学校の理科程度の知識だが褒められた。


 エルミアさんはその後少し思索にふけった後、ちょっといろいろ試してみますと研究室へ引っ込んでいった。後はおまかせしよう。


 ◇


 この世界は魔素を介して世界を操作する精霊術や魔術なんてとんでも法則がまかり通っているが、そうはいってもそれらは万能というわけではない。


 精霊術は周囲の魔素のエネルギー(これを魔力というらしい)を急激に消費するのか実は連発できなかったりするし、魔術は魔石という魔力を溜め込む電池みたいなものを利用しないと大きな魔術の発動はできない。

 錬金術を専攻する魔術師は無限に魔力を供給する夢の魔石、通称賢者の石を錬成するのが最終目標らしいが、そんな永久機関というのは人類の儚い夢という感じだ。


 高価なためあまり量産はされていないが、魔石をエネルギー源とする魔道具というものも存在する。

 これは前世で言うプログラムのように事前に魔力の変換式を組み込んである機器で、ランプのように光を発するものや、マッチのように火をおこすもの、水筒に水を満たすものなど便利なものが多種多様に存在する。


 じゃあ魔力をつかってピストンを動かせばいいじゃんなんてことも考えたが、馬並みのエネルギーを継続的に与えられる魔力を持つ魔石なんてそんな数が存在しないし、そもそも価格が高すぎて仕事で消費するのは割に合わない。

 それに強力な魔石は軍需物資扱いで竜みたいな強力な魔物の討伐や国家間の戦争などに使うために国が管理してたりする。


 つまりは一般的な技術や製品に関しては前世と同じような物理法則を適用したほうが結果的に経済的という感じなのである。


 ただ太陽の光や水車の動力を魔力に変換する研究なども行われているらしいので、この世界では将来的に前世の電気のポジションが魔力になるのかもしれない。

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