第21話 鉱山と大気圧機関①

 モルガン・ウォッカを作ってからというもの、トラヴォグから理由をつけて鉱山都市にしょっちゅう呼び出されるようになった。

 どう考えても僕に会いたいというより差し入れのお酒が目当てなんだろうけど。


 とはいえお得意様なわけだしたまには営業がてら顔を出しに行くかと馬車に乗って鉱山都市へ向かったところ、がやがやとなにやら現場が少し騒がしい様子であった。


「おうヴィクター、よく来たな。来たばっかりで悪いがちょっと見てくれ」

 トラヴォグが僕に気がつくと坑道の方に手招きする。


「なにか問題発生ですか?」

「ああ、坑道を掘ってたらでかい地下水溜りにぶち当たってな、出た水をどうにかしないといかん。汲み出すのも大変なんだがお前ならなんとかできないか」

 なるほど、そういうことか。たしかに水の精霊術を使えば動かせはするが。


 うーん、としばらく思案したが残念ながらちょっと難しそうだ。

「できなくはないですが地上まで出そうとすると坑道壊しちゃうかもしれません。あんまり細かい制御は効かないんです」

 精霊術は強力だが細かい制御が効かないのが欠点だ。坑道を通して排水しようとすると崩落させてしまう危険性がある。魔術ならもうすこし繊細に動かせるがこの量の水を扱える魔術師はすぐには連れてこれない。

「そうかぁ、ならしょうがない。いつも通りポンプで汲み出すしかないな」

 そう言ってトラヴォグは地下水排出用のポンプに人を手配し始めた。


 坑道を地下に掘っていると地下水に当たるのはどうしようもないことらしい。

 坑道はある程度地下水に当たることを前提に掘られていて、出た水を一箇所に集めそれをポンプで引き上げられるようにはしてあるとのこと。

 仕組みとしては井戸用のポンプと同じである。ただポンプのサイズが大きいため人力じゃとてもじゃないが動かせず、馬の力で頑張って引っ張って動かしていた。

 たしかにこれは大変な作業だ。


 その作業現場をみていてふと思った。

 そうだ、たぶんこういうときこそ蒸気機関とやらの出番ではなかろうか。

 僕は蒸気機関について仕組みはよくわかっていないが今は研究所という心強い存在もいる。エルミアさんたちに依頼して一緒に考えてみよう。


 完全に他力本願ではあるが、困ったときは優秀な人たちに頼るのが一番である。

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