第20話 錬金術と生命の水③

 ポーションの作成方法と蒸留酒の作成方法はかなり似通っている。


 蒸留というのは複数の沸点の違う成分が混ざった液体を熱して蒸発させた後、冷やして再び液体にもどし、それにより特定の成分を抽出や凝縮する操作のことである。


 濃度の高いより良いポーションの作成をする際には濃度の低いポーションをさらに蒸留して抽出したりするらしい。

 研究所を建設する前に参考にと錬金術師の作業場を見学させてもらったところ、前世の理科の実験で使ったようなガラス製の機材が置いてあったので知ったことだ。

 同じように蒸留酒に関しては麦やジャガイモなどから作られた酒を元の液体として蒸留して、より度数の高い酒が抽出できるはずだ。


 と思ってお願いしようとしたところ意外な返答があった。


「あ、じ、実は同じようなものをすでに作ったことがありまして、た、多分単純な蒸留酒自体はすぐにできると……」

 と、エルミアさん。聞いてみると、アルコールを蒸留して濃度を上げる作業自体は錬金術師はけっこうよくやることらしい。

 抽出した濃度の高いアルコールは「生命の水」と言われ、薬の材料としてよく使われており、錬金術師でも愛好家がこっそり飲んだりしているとのこと。


 ちょっと拍子抜けだったが実現できそうなら話は早い。

 麦の酒とジャガイモの酒を研究所に運び込み、香料も含めいろんなパターンの抽出や混合比を試してもらうことにした。


 ジャガイモは4年前にジェームスさんから少量譲ってもらったものだが、懇意の農家に増やしてもらって今ではかなりの生産量になっている。食料としても酒の原料としても十分な量だ。


 ◇


 それから数ヶ月いろんな実験を行った結果、香りも味も良い組み合わせと混合比がようやく見つかった。


 鉱山都市からトラヴォグにも来てもらい最終確認の飲み比べのテストをしてもらったところ「ぜんぶ美味いな! なんだこの酒は!」と、比較としては参考にならない意見だったがとりあえず絶賛であった。


 それから大量生産のため、エルミアさんたち研究員に設計、監修された巨大な蒸留器も作成。いろんな苦難はあったが無事新製品としてリリースできることになった。

 名前は前世に習って「モルガン・ウォッカ」と名付けた。本物のウォッカとは厳密には違うかもしれないがまあこの世界では誰も気にしないだろう。


 そんなモルガン・ウォッカだが最初の生産品はほとんど鉱山都市のトラヴォグたちに買い取られてしまったりした。気に入ってくれたのは嬉しいが容赦がない。

 その後の酒場や小売店での売れ行きも順調で、町の呑兵衛たちに人気を博している。度数が高いので飲み勝負に使うのはほどほどにとは言ってある。


 初版のうち1本だけは後世でプレミアが付くかもしれないとこっそり床下に隠してあるのは今のところ誰にも話していない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る