第19話 錬金術と生命の水②

 僕の強い働きかけでモルガン商会と魔術師ギルドは提携を結ぶこととなった。

 彼らは商会から研究の資金提供しますと伝えたところ土下座する勢いで頭を下げてきた。よっぽど普段から資金難なのだろう……、可哀想でならない。


 まずは形からとモルガン商会の資金でニューヨークに新規で大きな研究所を建設した。正面玄関には大きくモルガン・ラボラトリーというような意味の看板がかけられている。新大陸に誕生した一大研究機関である。


 ◇


「こ、こんな立派な施設……、ど、どうやって使えば……」

 白衣を着た小柄な女性が施設内を見回して動揺した声をあげた。


 魔術師ギルドからは複数の人材を派遣してもらったが、彼女はその中でも商会との窓口を務める代表の研究員である。魔術師ギルド曰く新大陸では一番優秀な人材らしい。僕と同じような長命種族の生まれで、見た目からは想像つかないが魔術師としてはすでにけっこうなベテランらしい。

 ちなみに白衣は制服として商会が提供したものである。


「もう好きにつかっちゃって大丈夫ですよ、エルミアさん。研究資金もできる限り融通しますので頑張ってください」

 と、僕はにこにこしながら言う。エルミアというのは彼女の名前だ。

「そ、そうですか。あ、ありがとうございます……」

 怯えた小動物みたいになっている。


 金欠生活が長いためか、ちゃんとした施設や潤沢な研究資金という状態にだいぶ戸惑っているらしい。前世の知識から新製品・新技術への投資は企業として重要であると分かっているので資金の出し惜しみはしないつもりだ。


 魔術師ギルドとの契約としては、優秀な人材を製品開発のために派遣する代わりにこの研究所にて得られた成果物の利益の何割かを魔術師ギルドが得るというようにしている。

 製品に関する特許権は基本的には商会が得るが、研究員は論文などを自身の名義で自由に発表していいことになっている。また商会が依頼した製品研究を優先してもらうが、それ以外の時間は自身の専攻する研究に当ててもよいとした。


 さて環境は用意したので問題は何を研究するかである。

 錬金術で作成されるポーションも冒険者ギルドや商会で取り扱っているので、そういった研究でももちろんいいが、ひとつ錬金術用の機材を見て思い付いたものがあったのでそれに取り掛かってもらうことにした。


「じ、蒸留して強いお酒を作る、ですか? それは……」

 そう、蒸留酒の作成である。

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