第13話 紙とインク

 新大陸に入植をはじめてから7年が経過した。


 モルガン商会の経営も順調で売上も組織も急拡大中である。

 正直あれもこれも手を出しすぎて僕もずっと忙しい状態だ。

 これではもはや商会のほうが本業で冒険者ギルドのほうが副業になりつつある。


 しかしながら人手についてはリューリク経由で紹介された人員がほとんどだからギルドの代表を辞めるわけにもいかない。

 どうも最近モルガン商会は本国のベテラン冒険者の有望な引退先みたいにもなってきているらしい。まあ優秀な人材が多いのは助かっているけども……。


 ◇


 そんな拡大する組織で最近問題になってきたことがある。


 なにかというと経費の増大である。

 僕は経理にそんなに精通しているわけではないが、それでも決算報告書を読むと事業規模の割には出費がずいぶん多いなと感じていた。


 担当しているシャーロットに何にそんなに費用がかかっているのか確認したところ、どうも事務処理に大量に使っている紙が高価だというのだ。

 たしかにこの世界では紙はもともと割高であるし、さらには現状本国で生産されたものを輸入しているので余計に輸送費がかかってしまっている。

 そういうわけで新大陸の紙はけっこうな値段だ。前世だと真っ白で書きやすい紙がほぼ無料のように使えたのを考えると雲泥の差である。


 総督府でも紙の経費は困っているとのことだったので、モルガン商会として次は製紙産業に参入することになった。経費削減と合わせて一石二鳥である。


 とはいえまずは製紙職人の招聘が必要である。

 リューリクに伝手がないが確認したところ、すぐさま本国の製紙工房から独立したい若い職人達を引き抜いてきてくれた。

 そんなことして関係各所に怒られないのかと思ったけど、モルガン商会からリューリクに人材紹介料として支払っている資金から製紙事業関係者へお気持ちという名の賄賂を贈って特別に許可をもらったらしい。


 さすがギルド長に上り詰めた男。なにごともコネと誠意が肝心である。


 ◇


 やり方はさておき職人の招聘が無事に完了したので、新しく製紙工場をコットンタウンに建てることにした。


 紙の材料といえば木のクズというようなイメージがあったが、職人に聞くとどうやら木を加工して紙にする技術はまだないらしい。現在の原料としては亜麻や木綿のぼろを加工するというやり方が主流とのことだった。

 亜麻はどうやら寒冷地が生産に適しているらしく新大陸の今のあたりでは栽培に向いていなさそうだ。ただ木綿については紡績工場で大量にゴミがでてるのでそれを流用できそうで助かった。

 

 ついでに古くなった紙や衣服のリサイクル業もモルガン商会で始めた。

 いろいろこういった中古市場にも参入するのもいいかもしれない。


 川沿いに新たに水車を利用した石臼や紙漉かみすき工場を建造し、新大陸での一大製紙工場が出来上がった。

 ついでに煤とにかわを利用して作られるインク工場も建造した。これも木炭工場のゴミを再利用できたのでお得だ。産業廃棄物の活用はとても大事である。


 これにより商会や総督府の経費が抑えられただけでなく、意図はしていなかったが教会や魔術師ギルドからも感謝された。

 聖書や魔導書などの書物の作成が安くできるようになって助かるとのこと。


 そういえばこの世界では活版印刷はすでに発明されているらしい。

 この世界にもグーテンベルクさんがいるんだなとひとり感心していた。

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