第12話 酒と芋

 酒の調達。鉱山都市のトラヴォグから頼まれたもう一つの依頼である。


 酒産業は現状新大陸であまり育っているとはいえない。

 麦などの生産は行われているものの増え続ける人口に対応するため基本的には食料として優先して消費せざるをえないためである。人口が安定するまでは大々的に酒業に回す余裕はないだろう。


 ただビールには嗜好品としてだけでなくこの時代の安全な飲料水といった面もあるため、各都市への供給自体は必要である。

 いままでは国の支給物資として最低限は輸送されていたが、今後は民間の商会などから輸入する必要がある。そうなると最近やってきた本国の商会に頼るしかない。


 どうやら彼らの支社の設立も終わったようなので、モルガン商会の代表として挨拶に行くことにした。


 ◇


 本国の大手商会の一つであるマセソン商会は主に海運での貿易で富を得ている貿易商社である。今回は王国から命を得て新大陸に支社を設立することになったらしい。


 マセソン商会の受付で話を通し、打ち合わせ用の部屋のソファーに座って待っていると、ノックの後若い男性が入室してきた。


「はじめまして。私はマセソン商会の新大陸支社代表であるジェームス・マセソンと申します。よろしくお願いいたします」

 丁寧な挨拶の後、深々とお辞儀をしてくる。

「はじめまして。モルガン商会代表のヴィクター・モルガンと申します」

 こちらも立ち上がり礼を返す。


 大手商会の代表となると偉そうなおじさんがでてくるかと勝手に思っていたが、どうやらそうでもないらしい。

「こんな僻地にわざわざやってきた者同士です。お互い仲良くやりましょう」

 と彼は苦笑する。どうやら彼も新大陸に来たくて来たわけではなさそうだ。


 挨拶も終わったのでその後は商談の話になる。

 ひとまず酒類の調達の話をしたところ、ビールとワインについては在庫があるとのことですんなり話がついた。酒は確実に売れるとわかっているので先に持ってきたらしい。今後の定期購入もお願いした。


 ただワインより強い酒についてはどうもあてがないらしい。

 ウォッカとかないのかな。


 たしかウォッカは麦とかジャガイモが原料だったはずだけど、ジャガイモに相当するものはそういえばこの世界で見たことないな。

 そう思って聞いてみたところ、最近別の大陸で見つかった花がきれいな植物がそれに当たるかもとのこと。ジェームスさんがちょうど趣味で育てていたので良ければ差し上げますと言われた。どうやら観賞用で食べものとは思われていないらしい。


 ちょうどいいので少し分けてもらった。

 懇意にしている農家にでも頼んで育ててもらおう。


 あとはコットンタウンで生産している織物や衣類の輸出の話をした。


「あの町には私も視察にいきましたがすごいですね。とくに工場でしたっけ、あれほど効率のいい作業場は初めて見ました」

 とジェームスさん。紡績工場については頑張ったので褒められてうれしい。

 

 まだこの世界は工房を持つ職人などを除き各個人の家を作業場にして生産するのが普通で工場に集まって分業して生産するというのはそれほど一般的ではないらしい。


 商品についても品質の割には安いし量もあるので助かると言ってくれた。

 この調子で今後も贔屓にしてもらおう。

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