第10話 商会の設立
新大陸に入植をはじめてから5年以上が経過した。
我らが第一都市ニューヨークも順調に発展し立派な町へと変貌してきた。
最初の入植時には急造だった総督府やギルドの事務所も今は建て替えられちゃんとした建物になった。海沿いの港も大規模に整備され本国や海外からの商人たちの船が定期的にやってきて貨物の積み下ろしをしている風景が見られるようになっている。
商人に話を聞いてみると新大陸は十分に開拓されて織物や衣類等が安く仕入れられるようになったという評判が商人たちの間でも流れるようになったらしい。
最近は有望な鉱山も見つかったということもあり、遠く離れたこんな僻地まで彼らがはるばるやってくる価値が出始めたというわけだ。
商人ギルドと称しているものの実体は冒険者ギルドの副業集合体だった状態にも変化の時が訪れた。このたび本国の大手商会の支社がニューヨークに設立されることになったのである。
いままでは国主導で物資の輸出入をしてくれていたが、基本的な自給ができるようになったことや衣類などの取引量が多くなってきたこともあり、今後はそういった輸出入は民間に移行していくことにしたらしい。
それならついでに今の商人ギルドの事業もその商会に任せれば楽になるかもなどと甘いことを考えたが、リューリクも含めた関係者から盛大にストップがかかった。
要は苦労してこれまで育ててきた利権をただで渡すとは何事かということだ。
まあ確かにそうだ。地元経済の利益を本国に吸われては実にもったいない。
そういった流れから新大陸商人ギルドは体制を変え、本国の商会の進出に対抗するためのいくつかの新組織となることになった。
そのうちのひとつとしてが設立されたのがモルガン商会である。
モルガンというのは僕の新しい名字のことだ。
商会を持つならこの機会に名字を付けろとリューリクに言われたので、前世アメリカにあった大きな会社にあやかってモルガンとした。
今後はヴィクター・モルガンが正式な僕の名前となる。
この世界だと貴族や商会などを持つある程度大きな商人は名字を持つものらしい。
もはやただのヴィクターじゃいられないということだ。
代表を務めていた流れから僕の名前を冠しているが、実態は引き続き冒険者ギルドの請負案件などから始めた事業を取り扱う商会となる。
現在の主な事業内容はコットンタウンでの紡績工場の運営、各都市間の物資輸送代行業、食料品や衣類など全般を取り扱う小売業である。
今後は新しくできた鉱山都市の木材の調達のため林業にも進出予定だし、他にも手を出している業種がいくつかある。
冒険者ギルドや総督府とも関係が深いし、一緒に育ってきた地元経済ともがっちりスクラムを組んでいるため、本国の大手商会とはいえここに新規で参入するのはなかなか大変だろう。
とはいえ今後の輸出のためには外洋に出れる大型船を多数持っている本国の商会とも仲良くする必要があり、地元経済への参入も完全ブロックではなく妥協点を見つける必要はありそうだ。
利益を守りつつお互い儲けられるといいなとは思っている。
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