第9話 鉄の時代

 冒険者ギルドと商人ギルド代表、追加で下院議員と三足のわらじ状態になってしまいバタバタと忙しく過ごしていたところ、近隣地域の調査任務を請け負っていた冒険者から新しい報告が上がってきた。

 曰く少し離れた山脈地域で鉄鉱石が見つかったとのこと。


 鉄鉱山の発見は朗報であった。

 これまで鉄の道具に関しては本国からの輸入に頼っていたのでこれでようやく道具類の新大陸での自給生産の目処が立つ。


 総督に報告するとさっそく本国から鉱山開発の専門家が招集されることになった。


 ◇


(ドワーフだ……)

 一目みて僕はそう思った。鉱山開発の専門家として本国からやってきた一団は完全に見た目が前世の記憶でいうところのドワーフだったのである。


 背が比較的小さく筋骨隆々で男性はみな豊富なひげを蓄えている。

 各々鉱山用のハンマーやつるはしなどの道具を担いでいるのもまさにそれである。


 旅をしている間にたしかに山の奥地に鉱山都市がありそこに暮らす種族がいるとの噂は聞いていたが、行こうにも山の手前の関所で止められて行けなかったのである。

 自分みたいなエルフのような種族が彼らから嫌われているのかというとそういうわけでもないらしく、彼らの領域に入るには特別な許可が必要らしい。

 曰く貴重な鉱物があるからとか、技術の秘匿がとか、王家の権益を守るためとか様々な噂は聞いたが本当のところは定かではない。

 純粋な彼らの種族はめったに山から降りてこないらしいが、王国には彼らの種族の血を引く人間はわりといるらしい。我らが冒険者ギルド長リューリクもそのうちの一人との話を聞いたことがある。

 ……確かにちょっと似ているかもしれない。


 そんなドワーフの一団を引率して第三都市である鉱山都市の開発がスタートした。


 ◇


「いい山じゃねえか。正直期待してなかったが気に入ったぞ」

 彼らの代表であるトラヴォクは山肌を触りながら嬉しそうに言った。

「気に入ってくれたならなによりです」

 僕には山の良さはちょっとわからないが評価が良いに越したことはない。


 さて、冒険者ギルドの代表としての仕事は道中の案内と護衛なので無事完了。

 この先は商人ギルドの代表としての仕事になる。すなわち商談だ。


「これから食料、衣類はもちろん定期的に輸送しますが、他に入用なものはありますか。できる限り努力しますのでなんでも言ってください」

 これからお得意様になるのである。営業をかけておいて損はない。

「そうだな……。坑木、ああ坑道を支える木のことな、に使う木材がいるな。精錬に使う木炭もだ。この山あたりで俺らが切ってもいいが大量にいるんで面倒だ。専門の木こりに任せられるならそのほうがいい」

 その時間があったら坑道掘る時間に当てたいからな、とトラヴォグ。

「たしかにそうですね。林業担当の労働者を追加で割り当てたほうがいい気がするので総督にも言っておきます」


 ふうむ、とトラヴォグはひげをひと撫でするとにやりと笑ってこういった。

「それと酒だな、酒。できるだけ強いのがいい」

 酒はあればあるだけ仕事が進むからな、と言い残すと彼は早速山の掘り出しに向かって行った。先に家は建てないのかと思ったけど彼らはどうやら掘り出した山の中に住む文化らしい。


 木材と酒か。頑張って用意しよう。

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