第8話 植民地議会の設立

「ヴィク、すまん。助けてくれ」


 ある日、総督が疲れ切った顔でそう言ってきた。

「どうしたんですか、というか大丈夫ですか」

 軍出身でタフな総督がこんな顔しているなんて相当な事態だ。


 ◇


 総督曰く急激に増えた人口とそれに伴う総督府への陳情の増加で処理がとうとうパンクしたらしい。


 いままでは総督とその部下が重要度順に対応してきたが、さすがに人口の増加に対応しきれなくなったようだ。

 たしかにニューヨークとコットンタウンを合わせると入植者はすでに2000人を超えているはずだ。いろんな利害調整だけでも大変だろう。


 本国へ何度も増員を要請しているが、新大陸みたいな海を隔てた僻地に来たがる貴族がいないのと、お役所仕事でいつになるかわからないとのこと。


「なにかいい案はあるか」と総督。

 ふうむ、本国では貴族が各土地を長年治めているからなんとかなっているが、新大陸は国の直轄地かつ行政府がまだ整っていないので総督がそこらへんの整備もなんとかしないといけないらしい。


「そうですね。まずは可能な範囲で自治体に権限を渡すのと各団体の代表者に意見のとりまとめをお願いして、総督の負担を減らすしかないんじゃないでしょうか」

「権限の委譲と各団体の代表者選出か。この町も大きくなったからなあ」

 総督が腕を組んでうーんと考え込む。


「ただいろんな団体から各種様々な陳情がでていてな。それを受け止められる代表者の選出となると……、骨が折れるな」

 たしかに農民、労働者、職人、商人、教会などいまや多種多様の利益団体がいる。


 僕もちょっと考えたがここは前世の地方自治の方法でいいだろう。

「そこは選挙でいいんじゃないですか。選挙で代表者、議員を選出しましょう」


 ◇


 そんな流れで新大陸での第一回の選挙が行われることになった。


 たしか前世のアメリカにも植民地議会というものがあったらしい。

 同じように本国が選んだ既存の議員で構成された議会を上院、今回の選挙でえらばれた民間の議員で構成された議会を下院とする両院制にすればいいんじゃないかみたいに提案したら即採用された。


 ただ文字の読み書きができない住民も多いので、農民代表や労働者代表は聞き取りでの選出など一部簡易的な実施となった。職人や商人、教会代表などは文字が書ける人も多いので投票所を設置しての実施となった。


 さすがに普通選挙ではなく投票権の絞られた制限選挙ではあったけど、これが議会制民主主義の始まりかーみたいな気分になり嬉しくなった。


 ただ前世の歴史の流れからすると民間議会は植民地自主独立への第一歩だった覚えがあるので大丈夫かなと思ったけど、まあそのときはそのときか……。


 ちなみに自分に政治は関係ないかとたかをくくってたらコットンタウン紡績工場労働者と商人ギルドの代表として僕が議員に選出されてた。


「当選おめでとうございます」とシャーロット。

 彼女も僕に投票したらしい。……清き一票をありがとう。

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