第7話 衣類生産への道③

 流れで新大陸の商人ギルドの代表になってしまったが、ちょうどいいのでこの際いろいろとシステム化や工業化してしまおうと考えた。


 まずは総督から冒険者ギルドへ依頼されていた都市間での食料輸送を商人ギルドの管轄に移管した。いや、実質働いている人員は同じなんだけどね。

 変わった点としては冒険者への都度依頼だったところを商人ギルドの輸送業者として正規に雇うようにしたことである。


 正社員募集として掲示板に張り出して面接を経て雇用した。まあ人材不足で輸送担当の冒険者はほぼ固定だったから形式的な面接だったけど……。

 固定給と出来高払いで馬車もギルドの備品の貸出とした。給料も今の時代としてはけっこう高待遇だと思う。

 ついでに同乗する護衛の兵士も募集してそちらも正社員にした。これで輸送の回転率や信用も上がるのでよりやりやすくなる。

 規模が拡大したら分離して運送会社とか警備会社にしようかな。


 ◇


 コットンタウンの綿花農場や工場だが次々に本国から送られてくる入植者を割り当てていった結果かなりの規模になってきた。

 どうやら本国で食い詰めている農民の三男四男などが「新大陸なら自分たちにも土地を貸してくれて生活できる」との噂を聞いてやってきているらしい。

 現状新大陸は耕作予定地が大量に余っているし、国の直轄地となっていて総督が貸与権限を持っているのでどんどん彼らに貸し出せるのは確かだ。


 新大陸は労働力不足が深刻なため人が来るのはありがたいが、人がひっきりなしにくるせいでしばらくは受け入れ対応に総督も僕もかかりっきりになってしまった。


 工場のほうも品質のばらつきを抑えるため少しずつ企業化していった。


 まずはベテランを正社員として雇い固定給を与えて各工程の教師役を担ってもらった。おばあちゃんの社員なんかは普段から集落での技術の継承を担っているためか教えるのがとても上手だ。

 さらには人員の班分けをして生産量が一番多い班には追加の賞与を与えるようにした。これは競争による効率化の推進とモチベーションアップを狙ったものだが、効果は上々で各班いろんな工夫をして生産性を上げているようとしているようだ。

 あとはマニュアル化もしたいところだけど、文字が読める人が少ないから先に学校を整備して識字率を上げないと難しいかもしれない。これは今後の課題だな。


 そんなこんな生産管理を進めていった結果、工場は3割ぐらい正社員になりベテランのおばちゃんたちが喧しく雑談しながらも管理されている一大生産拠点となった。


 そのおかげでコットンタウンの布や衣類の生産量もそのうちに新大陸の需要を大きく上回るほどになり、本国に輸出する余剰も出てきた。

 教育体制の整備や分業化したことで職人の腕も上がりやすくなり、品質も生産性も十分だ。あと大規模な綿花の生産地近くに工場を立ててるから材料費も抑えられて価格も比較的安い。これなら本国に輸送しても売れるだろう。


 今までは本国から開拓支援という形で物資を送られるだけだったが、食料や衣類等の自給ができるようになり本国へ商品の輸出も少しずつできるようになってきた。


 総督と話すとそれをとても喜んでいた。自給できるようになるまではもっとかかると思っていたらしい。「これで本国の官僚からの文句も減る」と世知辛いことも言っていた。総督も見えないところで大変だったのね。


 「この調子でどんどん生産してどんどん稼いでくれ。自給できるようになったということは本国への税金の支払いもはじまるのでな」

 総督がさらに世知辛いことを言う。


 そうだよね、そのための植民地だもんね。

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