新大陸編

開拓時代

第4話 食料生産への道

 時代を進める決意をしたものの、まずは新大陸の開拓からである。


 これから入植者が新大陸へどんどんやってくるのだ。

 彼らの衣食住を十分に賄わないといけない。


 物資についてはしばらくは本国からの輸送でなんとかなるが、今後人数が増えていくことを考えれば自給しないとやっていけなくなるのは明白だ。


 現在の総員は約100名。内訳は総督府の職員が10名程、冒険者ギルドも10名程、様々な専門職の技術者が30名程、残りが入植者兼労働者である。

 追加人員も後からやってくる予定とのことだが、なんにせよまずは現地での食料生産を安定させなければならない。


 ◇


 冒険者ギルドとしての本来の役割は未開地域の調査や魔物退治などが主である。ただインフラが整っていない当面は手があいていれば開拓作業の手伝いをしてくれと依頼されている。


 衣食住の衣は当面本国からの輸入、住は職人に任せるとして、まず人手が必要なのは食料のための農地作りだ。

 いつまでも本国から輸送される保存は効くが固くてまずいパンや塩漬け野菜というわけにもいかないし、なにより早くまともな食事がしたい。

 海に漁に行ったり、近くの森に採集や狩猟に行っている人員もいるが多数の人口を支えるためにはやはり農業が基本である。


 まずは土地の開墾作業だけれども、僕が土の精霊術でサクッと終わらせた。


 大地に手を当て土の精霊たちにお願いすると、辺りの地面がぼこぼこと隆起し柔らかく耕され大小さまざまな石や切り株などは地表へと放り出された。

 先に来てがんばって開墾作業を進めていた入植者たちにはちょっと申し訳ない気持ちがあるけど、無駄に時間をかけてもしょうがない。こういうのは適材適所だ。


 これには視察に来た総督も驚いていたけど、すぐに「その調子で頼む」と言って総督府の事務所に帰っていった。現場が進めばやり方はどうでもいい主義らしい。


 川からの灌漑も同様に実施して農作のための最低限の下地は整備した。

 あとの細かいところは入植者達に任せよう。


 ◇


 その後は港を整備したり入植者の家を建てたり開墾した農地の種まき草むしりをしたりなど忙しくやっているうちに1年が過ぎ、再び夏となった。

 広げた農地での麦の栽培も順調でそろそろ収穫ができるようだ。


 そういえばこの世界での暦も1年は12ヶ月単位らしい。四季もあるし空には太陽と月らしきものもあるのでその点は前世の記憶で言う地球とほぼ変わらない。

 実は太陽系でここは本当に地球だったりするSF展開なのかもしれないが、詳しいところは宇宙時代にならないとわからなさそうだ。


 そうするとハノーヴ王国などがあったところはヨーロッパでここはほんとにアメリカ大陸だったりして……、なんてギルド事務所で妄想していたらノックの音がして総督が入室してきた。


「総督、お疲れ様です。用事があればこちらから向かいましたのに」

「いや、大丈夫だ。近いしわしが来たほうが早い」

 総督は本国ではけっこう偉い貴族の出身らしいが、元軍人のためか現場・効率主義で誰とでも気さくに接してくれている。僕もこの1年でだいぶ仲良くなった。


「ヴィク、お前の協力もあって農地開墾も予想より順調に進んだ。新大陸での食料生産も問題なさそうで、次の入植者の準備も本国で進んでいるらしい」

 食糧危機が発生しなくて本当によかった。最近は食事に新鮮な野菜が並ぶようになってとても嬉しい。


 総督は机に地図を広げて現在の拠点から少し離れた土地を指さして話し始める。

「次の入植者達は少し離れたここの土地に住ませる予定だ。やっと2つめの拠点ができることになるな」

 そこまで言うと総督は腕を組んで悩んだ表情をする。

「実は部下から識別のために今の町の名前をつけてほしいと言われてな。わしはそういうのは苦手なんで……、なにかいい案があればと思うんだが、どうだ?」

 なるほど。新大陸の第一都市だもんな。名前は重要だ。


 うーん、新大陸の第一都市か……。

「例えば……、ニューヨークとか?」


 ◇


 アメリカ大陸からの連想で適当なこと言ったら採用されてしまった……。

 新大陸第一都市、ニューヨーク誕生の日である。

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