第3話 新世界での決意

「うえぇ……」

 小舟を降りてすぐ砂浜にうずくまってしまった。まだ足元が揺れている気がする。

 新大陸への船旅は本当に最悪だった。思い出したくもない。


 ◇

 

 リューリクからの依頼後、僕はハノーヴ王国の正式な冒険者ギルド職員になった。

 これで晴れて国家公務員だ。


 ギルドの現地代表だからといろいろとたいそうな役職もつけられた。

 現地では新大陸のトップである総督が直属の上司になるらしい。つまり暫定的にだが新大陸の公的機関でもかなり上位の立場になる。前世でもこんな役職をもった記憶はないので責任重大である。


 こういう新規大規模案件は普通は既存のギルドの偉い人が担当するもんじゃないかと思ったが、リューリク曰く皆国に家族がいるし左遷先みたいな新大陸には行きたがらないらしい。独身の僕はその点でも都合がいい。


 先遣隊の数人の部下と冒険者達を引き連れ船に乗り、10日程海の上。

 やっとのことで新大陸にたどり着いたのが今だ。


「ヴィクターさん、大丈夫ですか」

 後から上陸用の小舟から降りた女性が駆け寄ってきて声をかけてくる。

「……ああ、大丈夫。ありがとうシャーロット」

 シャーロット、彼女は自分の秘書兼ギルドの事務方のトップになる人だ。僕と同様に長命の種族出身でとても仕事のできる優秀な人らしい。リューリクが手配して今回サポートにつけてくれた。

 僕はギルドの現場仕事は慣れてるが事務仕事は知らないのでとても助かる。


 しばらく砂浜にうずくまっていたがやっと船酔いが収まったので、ふらふらと立ち上がった。そろそろ先に現地入りしている総督に挨拶しに行かなければならない。


 これから僕の上司となる人だ、第一印象はきちんとしないと。

 深呼吸して気合を入れ直す。


 上陸地点の近隣の土地に作られた、おそらく急造であろう総督府というには寂しい小屋にノックして入室する。


「失礼します。冒険者ギルド新大陸支部代表ヴィクター、本日着任いたしました」

「おお、待っていたぞ。ずいぶん若いのが来たなぁ」

 机で事務仕事をしていた壮年の男性が顔をほころばせ、手で椅子に座るようにと促す。どうやら優しそうな人みたいでよかったと内心安堵した。


「いえ総督。こう見えても140を超えてます。長命な種族の生まれなものでして」

 ふむ、と総督は驚いたような表情をする。

「すまんな。冒険者ギルドには多いみたいだが軍には長命種族はいなかったもんで見分け慣れてないんだ。なんにせよ頼りにしてるぞ」


 ◇


 総督から諸々の説明を受けた後、ギルド用にと割り当てられた別の小屋に荷物を放り込み、冒険者ギルドの仮拠点がとりあえず出来上がった。


 ギルド職員とはそこで一旦解散し、僕は外をしばらく散歩することにした。


 近隣を見る限りまだまだ開拓を始めたばかりみたいで、港もできていないし家もテントなどが多くどれも間に合わせな様子だ。本国から持ってきたのであろう物資も乱雑に積まれている。


「うーん、前途多難だなぁ……」

 すっかり暗くなり満天の星空が広がる空を見ながらひとりごとを言う。


 転生して140年ちょっと、いろんな旅をしたあとにまさかこんな僻地にまた行かされるとは思わなかったが……。まあ逆に考えれば新鮮にまた一から始められるチャンスかもしれない。

 新大陸入植なんて前世でいうアメリカ大陸発見ぐらいの時代の転換期に立ち会えているのだろう。まさに世は大航海時代である。


 僕は足を止めはて、と思考する。


 大航海時代……。このまま時代を進めて工業化、産業革命まで行ければ段々と前世の時代に近づくかも、そうすれば小説、ラジオ、テレビ、ゲーム、あわよくばインターネットの時代ぐらいまでは生きられるかもしれないな。


 なにしろ僕は長寿の種族の生まれ、下手すれば1000年以上も生きるのだ。

 大変だと思うが前世の知識を使えば時代を進めるのが少しは早くなるかもしれない。時代がすすめば娯楽が増える。前世の価値観と長命なこの身を満足させるだけの膨大な娯楽産業が生まれるかもしれない。


「よーし、いっちょ頑張りますか!」 

 がぜんやる気が出てきた僕は、まずは第一歩として新大陸の開拓を進める決意を新たにしたのであった。

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